京王井の頭線永福町駅を下車し北に歩く。杉並区立郷土博物館へたどり着く手前の静かな住宅街に、株式会社アイネットホールディングス(以下アイネット)がある。「この場所には今は住宅しか建築できません。なので、社屋の拡張ができないんですよ。」と社長の小黒さんは話す。
アイネットは、1956(昭和31)年東高円寺の馬橋で菓子問屋として設立された株式会社双葉商店が原点だ。昔は同業者も数多かったが、ナショナルブランドが席巻し、多くの菓子屋が淘汰された。それでも「おいしい・安心・お手頃価格」を合言葉に、卸売と菓子メーカーの二本立てで進化し続けている。「通常、問屋で扱うアイテムは多くてせいぜい月2500種。でもうちは他社が扱っていない商品もあり、月に約5000種のアイテムが動いています。」と小黒さんは言う。
ショールームを見せてもらった。そこには、季節を先取りした商品、ゆるキャラが印刷された地方限定菓子、スーパーなどで見覚えのあるパッケージ、またどこか懐かしい菓子もある。日本全国津々浦々から集合したありとあらゆる菓子が所狭しと並んでおり、その空間はまるで「お菓子の図書館」のようだ。
※ショールームはビジネス用だが予約すれば一般でも見学可能。
アイネットのオリジナルブランドは、専門店向けこだわりブランド「東京カレン」、ヘルシーがテーマの「アセンド」、卸専門のオリジナルブランド「アイネット」、高級スーパー向け手作りブランド「味の花壇」、安心の材料使用の懐かしい菓子ブランド「おいしさ発見工房」、洋菓子専門ブランド「テレサ」の6つで、それぞれ特長がある。「お菓子は何百年もコミュニケーションツールとしての役割を果たしてきました。日本のお菓子というのは、海外のお菓子と比べると種類が多いだけでなく、デザインから微妙な味の違いまで、限りがありません。海外でも人気があります。」と小黒さん。
しかしながら、菓子は嗜好品。トレンドも日々変化していく。ゆえに新商品の開発は欠かせない。「商品開発部門に携わる人は、全社員数87名のうち6~7名です。でも、当社はどの部門で働く人でも自由にアイデアを出して商品開発の提案ができます。」他社と同じものや前例のあるものをなぞるより、”サムシング・ニュー”、一人一人の感性を大切に、数々の新しいオリジナル商品を誕生させているそうだ。商品開発を行う上では、どのような商品が売れ筋なのか情報収集も大事になる。その点、アイネットには卸問屋ならではの強みがある。
「戦前、クラモチというデパートの地下売り場のお菓子専門店で小黒健次という、私の父の叔父が働いておりました。出身は新潟県です。1946(昭和21)年の創業時に父が呼び寄せられたのです。1956(昭和31)年に株式会社双葉商店として法人のスタートを切りました。その後社名変更や合併を経て現在のアイネットがあります。」と小黒さん。
創業からおおよそ70年、菓子の卸売問屋として長年培ってきたものだけに頼らず、新たな付加価値サービスも追求している。その一つに、スーパーでの菓子部門の仕入れ・管理・販売までを一手に引き受けるアウトソーシングシステム「おまかせアイネット」がある。これは消費者ニーズの変化を逃がさずに、売り場の規模や客層に合わせて、効率的に売れ筋商品を配置するサービスだ。売上動向から商品構成提案まで、総合的にサポートすることが可能である。利用している売り場は、2014年12月時点で約330店。取り扱うアイテム数が膨大でオリジナル商品を備えるアイネットだからこそ実現できるトータルコンサルティングサービスと言えよう。
アイネットという会社名になじみがなくても、アイネットの商品である「なみすけゴーフレット」(※)はご存じの方も多いだろう。パリッとした香ばしいゴーフレットに、天然素材でなみすけがプリントされている。また、この商品の売上の一部は、「子供の健全育成を図る活動」に携わるNPO団体に活動資金として寄付される。
小黒さんは話す。「多少窮屈だと感じても、他の場所への移転は考えていません。なぜなら、今現在ここに働く社員は近所から通っている者が多く、この場所を気に入っています。他の場所に移転して今の社員たちが持つ高いスキルをなくしてしまうことは、会社にとって大きな損失なんです。この杉並で若い社員にスキルを伝承していきたい。」
2014年のアイネットの新入社員採用者は8名だったという。若い従業員が自由な発想で開発した商品が、今後も杉並からどんどん世の中に出ていくのが楽しみだ。
▼関連サイト
産業・商業/経営者・起業家/小黒敏行さん(サイト内リンク)
※なみすけゴーフレット」の販売は終了しています