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佐藤洋平さん

高円寺ニャンダラーズ参上!

「通報や連絡があると、捕獲器と洗濯ネットを持って出動です」
佐藤洋平さんは、東日本大震災をきっかけに設立されたボランティア団体・高円寺ニャンダラーズの代表だ。
2011(平成23)年5月に福島県内の被災地でペットレスキューを開始、これをきっかけに高円寺ニャンダラーズを結成し、現在は杉並区や東京近郊で地域猫のTNR(※1)や保護、里親探しを主な活動としている。目指すは伴侶動物との幸せな暮らし、そして殺処分ゼロである。
取材時も事務所には26匹のネコ がおり、人慣れしたネコたちは佐藤さんにまとわりついて離れない。高円寺ニャンダラーズでは保護したネコをできるだけ、家庭で預かり育ててもらう「預かりさんシステム」を大事にしているとのこと。
現在はメンバーと預かりボランティアさんで、100匹以上を保護している。
保護したネコは必要な予防注射と健康チェックのあと、預かりボランティアさんに愛情かけて育ててもらい、体調が整うと里親会デビュー。里親会はネコとのお見合いの場であり、月に2回、主に高円寺庚申通りの庚申文化会館で開催され、毎回20人ほどが訪れている。
高円寺ニャンダラーズは里親会以外も含め、これまで1,000匹以上の保護猫に家族を見つけてきた。つねに新しい家族を待つネコや、里親探しの困難なネコを保護し、迷子捜索や、各地のレスキュー活動を行っている。

さらに佐藤さんは、東日本大震災の保護活動で知り合った各地の動物保護団体や個人と連携。福島県双葉郡大熊町にある被ばくした牛の牧場(※2)運営や、新潟の動物シェルター「あにまるガード新潟(旧アニマルフレンズ新潟)」の再建、東京都の離島・御蔵島(みくらじま)のオオミズナギドリの保護活動(※3)に協力している。
東日本大震災での経験を活かしつつ、2024(令和6)年にはクラウドファンディングにも挑戦 。能登半島地震のレスキューに取り組むとともに、不妊去勢手術の為の病院開設に力を入れている。

※1 TNR: 捕獲(Trap)して、不妊・去勢手術(Neuter)をして、元の場所に戻す(Return)こと。不幸なネコを増やさない活動

※2 (社)ふるさとと心を守る友の会。福島県双葉郡大熊町で被ばくした牛の牧場を運営
https://www.facebook.com/friends.fumane/

※3 オオミズナギドリの営巣地で、野生化したネコの捕獲を山階鳥類研究所・東京都獣医師会・御蔵島村と共同で行っている
https://oomizunagidori.jimdo.com/

佐藤洋平さんは福島県郡山市出身

佐藤洋平さんは福島県郡山市出身

佐藤さんが運営に協力している牧場(写真提供:佐藤洋平)

佐藤さんが運営に協力している牧場(写真提供:佐藤洋平)

始まりはネコじゃなく~福島へ、そして東京へ

2011(平成23)年4月、佐藤さんは宮城県石巻市の私設避難所にいる友人のために支援物資を届けて以来、毎週のように被災地へと車を走らせた。「その中で、動物に特化した震災ボランティア活動がある事を知りました」
5月には高円寺ニャンダラーズを結成し、福島県内の被災地での活動が始まった。「動物を保護した直後は病院での健康チェックと治療が必須ですから、協力していただける病院があってとても助かっています」。実は、ある獣医師の一言が、高円寺ニャンダラーズの活動を東京へ広げるきっかけになった。「“困っているのはフクシマのネコだけじゃないよね。すぐ近くにひどい状態の不幸な子たちがいて、助けるために黙々と働くボランティアさんがいる”と。それに返す言葉がなかった。これまで旗を振るようにフクシマでだけ活動していた自分が恥ずかしくなりました」
高円寺ニャンダラーズの協力病院は、川崎市にあるTNR日本福祉動物病院と、杉並区梅里にあるハナ動物病院の2院。前出の獣医師とはハナ動物病院の院長・太田快作さん(※4)だ。「はじめは活動のことを言わずに、太田先生に保護ネコの診療をお願いしていたんです。しばらくして先生から“来てもらえないか”という電話がありました。行くと、“ニャンダラーズの活動を知った、協力したい”と言ってくださった」。以来、太田さんは高円寺ニャンダラーズのアドバイザー兼、顧問獣医師となった。

※4 太田快作さん:北里大学獣医学部出身、ハナ動物病院院長。ノンフィクション『北里大学獣医学部 犬部!』片野ゆか著(ポプラ文庫)に登場

ケージの中でおびえきっている、保護されたネコ(写真提供:佐藤洋平)

ケージの中でおびえきっている、保護されたネコ(写真提供:佐藤洋平)

不安にさせないように洗濯ネットに入れた保護ネコを診察するハナ動物病院の太田先生(写真提供:佐藤洋平)

不安にさせないように洗濯ネットに入れた保護ネコを診察するハナ動物病院の太田先生(写真提供:佐藤洋平)

不幸なのは福島のネコだけじゃない

「東京で活動を始めてから現在(2017年12月)までに、多頭飼育崩壊(※5)レスキューの相談が5~6件ありました。中には、6畳ひと間にネコが90匹余り、ワンルームに30匹というケースも。こうなると健康管理ができるはずもない。感染症にかかったネコがいれば、次々感染して子ネコなどひとたまりもありません」
多頭飼育崩壊の現場はすさまじい。初めは1匹、2匹の子ネコかも知れない。そのネコたちも不妊・去勢手術を受けさせずに家と外の出入りを自由にしたり、雌雄一緒にして、条件が整えば、年に数回繁殖し1回にだいたい3~6匹産む。佐藤さんは、「子ネコが部屋の隅や家具の裏で冷たくミイラのようになっていたりします。また人慣れをしていない大人のネコは、保護しようとしても野生動物のように威嚇して暴れるのです」と淡々と多頭飼育の惨状を語る。「不妊・去勢手術の費用が高額なのも一因でしょう。“手術なんてかわいそう”という人もいる」
別の例では、アパートで30匹あまりのネコを隠れ飼いしていた人が、ネコを置き去りにして部屋を退去。管理者がネコを全部外へ出してしまった。ネコたちは混乱して鳴き続け、困惑した住民と個人ボランティアから高円寺ニャンダラーズに連絡が入った。「なんで?と思うことばかりです。ネコがかわいそうで被災地で活動を始めましたが、東京に戻ると野良ネコへの餌やりのトラブル、虐待や飼育放棄、多頭飼育崩壊などの問題がある。ネコに対する考え方をきちんと根付かせないと、フクシマにフィードバックできないんです」
佐藤さんは、今も福島へ通って、人が戻り始めたまちと動物たちを見つめている。

※5 多頭飼育崩壊:飼育者の予測を超えて動物が殖えてしまい、コントロール不能になった状態

人慣れしないネコや事情があって里親会に出られないネコは、事務所で預かっている

人慣れしないネコや事情があって里親会に出られないネコは、事務所で預かっている

御蔵島大島分川沿で捕獲器を設置中。どこであろうと動物と向き合う心は同じ(写真提供:佐藤洋平)

御蔵島大島分川沿で捕獲器を設置中。どこであろうと動物と向き合う心は同じ(写真提供:佐藤洋平)

悲しみではなく希望を伝えたい

イヌやネコのほかにも、牛や豚など多くの家畜が、人のいなくなった福島のまちに残された。「避難者の手伝いや依頼で、帰還困難区域や居住制限区域へ何度も入りました」。そこには、たくましく生き抜いたものがいる一方で、餓死したものや捕獲されて殺処分されようとする動物たちがいた。佐藤さんはたくさんの悲しい、切ない場面を目にしてきた。「すぐ戻れるつもりだったのでしょう、牛が逃げたら迷惑になると思い、牛舎を閉めて避難。でもそこは原発事故で帰還困難区域になってしまった。一時帰宅が許可されて、牛舎を開けたら数百頭いた牛がほぼ全滅。その人は見るなり泣き出した。その声が今も忘れられない」
悲しみも、問題も、終わっていない。ただ少しずつだが前に進んでいる。「飼い主さんの元に戻ったり、里親さんと出会って幸せになったイヌやネコたちがいる。動物たちが幸せを運んだ人たちもたくさんいます。悲しい話ばかりじゃないことを、もっと多くの人に伝えたいと思っていました」。そんなときに協力を申し出てくれたのが、里親会でネコの里親になった後藤真樹さん(現高円寺ニャンダラーズ役員)、杉並区在住のカメラマンだ。そして、後藤さんの協力を得て2014(平成26)年に『おーい、フクチン!』(※6)が出版された。高円寺ニャンダラーズは、2015(平成27)年2月22日に、同書のトークイベントを高円寺「小杉湯」の協力で開催した。「この作品を持って子供たちの前に行き、小さな命についてのお話ができればと思います。なぜ動物たちが置いていかれ、苦しんだのかを一緒に考えたいですね」

※6 『おーい、フクチン!おまえさん、しあわせかい? 54匹の置き去りになったネコの物語』後藤真樹著(株式会社 座右宝刊行会)

2012年冬。居住制限区域、津波で崩壊した無人の常磐線富岡駅前で、ダチョウ園から脱走中の一羽と遭遇(写真提供:佐藤洋平)

2012年冬。居住制限区域、津波で崩壊した無人の常磐線富岡駅前で、ダチョウ園から脱走中の一羽と遭遇(写真提供:佐藤洋平)

福島で。全滅した牛舎で見たイヌ(写真提供:佐藤洋平)

福島で。全滅した牛舎で見たイヌ(写真提供:佐藤洋平)

2015年防災ペットイベントで、佐藤さんと太田院長がパネラーに(写真提供:佐藤洋平)

2015年防災ペットイベントで、佐藤さんと太田院長がパネラーに(写真提供:佐藤洋平)

ネコのために、地域の理解を求めて

佐藤さんは、高円寺の老舗ライブバー「稲生座(いなおいざ)」で働いている。深夜に営業が終わると事務所に行き、ネコの世話をして早朝に帰宅。そして午前は活動の準備やネコの通院、午後は保護活動、里親希望者の「お宅訪問」や里親トライアルのための「ネコさんお届け」などの活動をしている。夕方、再び事務所でネコの世話をし、夜には職場へ。「ほかのメンバーも、みんな仕事を持ち、忙しい中で活動しています」と佐藤さんは笑う。
数名で始まった高円寺ニャンダラーズだが、SNSや里親会を通じてメンバーやボランティアも増え、できることも増えた。しかし、佐藤さんは杉並で被災地とは違う問題に直面する。「フクシマでは保護することだけ考えればよかった。でも、こちらでは人との関係も考えなくてはいけない」。そこで、佐藤さんはネコと人との橋渡しをするために、すぎなみ地域大学(※7)を受講し「杉並どうぶつ相談員」になった。「不幸なネコを増さないために、地域の理解を得なければならないし、何よりTNRの知識を広め、不妊・去勢手術の必要を周知徹底しなくては」。今では、保護活動の前に、活動とTNRについて説明したチラシを周辺住宅に配布している。「まず杉並区での殺処分ゼロを実現したい。次は都内ゼロ、そして日本全国です。そのためにも若い人たちに参加してもらってこの活動をつなげていきたい」。寄付、賛助会員、預かりボランティアは常に募集中。ホームページや里親会で申し込める。
「高円寺ニャンダラーズは皆さまの善意で成り立っております」
被災地で生まれた小さな思いは、たくさんの出会いとともに大きく広がろうとしている。

※7:すぎなみ地域大学:地域活動に必要な知識、技術を学び、仲間を広げ、区民自らが地域社会に貢献する人材・協働の担い手として活躍できるよう各種講座を開講している。毎年10~12月ごろ「杉並どうぶつ相談員講座」を実施している

高円寺あづま通り商店会会館で里親会の様子

高円寺あづま通り商店会会館で里親会の様子

ニャンダラーズの里親会には、ワクチン接種済み、不妊・去勢手術済みで健康なネコだけがエントリー

ニャンダラーズの里親会には、ワクチン接種済み、不妊・去勢手術済みで健康なネコだけがエントリー

「公益財団法人動物環境・福祉協会Eva」のポスターで杉本彩さんと共演したニャンダラーズのアイドルネコと

「公益財団法人動物環境・福祉協会Eva」のポスターで杉本彩さんと共演したニャンダラーズのアイドルネコと

DATA

  • 公式ホームページ(外部リンク):http://nyandollars.org/
  • 取材:小泊あけみ
  • 撮影:小泊あけみ
    写真提供:佐藤洋平
  • 掲載日:2018年04月16日
  • 情報更新日:2024年06月13日