リサイクルショップや整骨院、蕎麦屋が軒を並べる高円寺北中通り商栄会。生活感あふれる通りの一角に、古本酒場コクテイル書房がたたずむ。古民家を改装した店内には、手前に小上がり、奥に向かってカウンターがある。壁一面に本が並び、古い時計や昔のポスターがレトロな趣を添えている。
店主は福島県出身の狩野俊(かりのすぐる)さん。「子供のころに父親の影響で歴史小説を読んで本好きになった。勤めていた洋書店が倒産し、自営業をやりたくて古本屋を始めた」。1998(平成10)年、26歳の時に東京都国立市で古書店を始めたが、やがて隣のスナック店主から教わって飲み物や料理を店内で提供するようになった。その後、高円寺に移転し、さらに現在の地に移ったのは2010(平成22)年のこと。「店舗は、業者に頼まずにほとんど自分で改装した。古めかしさだけでなく、とことん自分の好みにこだわった」
店では、作家が作品に登場させた料理を「文士料理」として出している。メニューに原稿用紙を用いるなど、本好きにはたまらない演出も。客層は広く、遠方から来店する人や外国人も珍しくない。「本は好きだが古書店には全く足を運ばない人も来店する。そういう人に古本の魅力に触れてもらうため、新刊書店や大手の古本チェーンでは扱わない本も置いている」。狩野さん自身、一昔前の小説を初版本で読むことが好きで、古い本の手触りや活字からは出版当時の雰囲気を直接感じられるという。「高円寺に本の文化をもっと根付かせたい。そのために店をもっとオープンな場所にしていきたい。ネットや電子書籍が普及しても紙の本はなくならない。古本こそ、画一的な流行から一歩距離を置き、洗練された上質な趣味の世界へと導いてくれるはず」と話す。古本と料理で味わうぜいたくなひと時、そんな時間をこの店で過ごしたい。