版画家・棟方志功(むなかたしこう)氏の初孫、石井頼子氏の著書。棟方志功の研究者として、作品や愛用品から制作の背景を探り、祖父が見ていたもの、感じていたことを分析している。
本書は雑誌「目の眼」の連載記事30編(平成22年7月~平成24年12月)をまとめたもので、この改訂版には、書き下ろしの3編と、著者と日本民藝館館長・深澤直人氏(※)との対談が追加されている。各編ごとに、本文の内容に関わる棟方氏の作品や本人の写真などが添えられており、美術解説書のような趣もある。
おすすめポイント
棟方氏は1903(明治36)年に青森県で生まれ、戦後に疎開先から荻窪駅近辺の家に引っ越してきた。本書には自宅のアトリエにいる棟方氏の一瞬を捉えた写真が掲載されているのだが、氏と共に大きい椅子が写っている。疎開時にこの椅子の梱包材として利用されたのが、サンパウロやベニスでのビエンナーレ受賞作「釈迦十大弟子」の板木であったという話が興味深い。他にも、棟方氏がカメラで自撮りをしている写真の背景に荻窪白山神社の参道が写っているなど、端々に見られる荻窪の風景に区民として親しみが感じられる。
※ 深澤直人(ふかさわなおと):プロダクトデザイナー。2012(平成24)年より日本民藝館館長。日本民藝館は棟方氏の初期の大作「大和し美し版画巻」を所有し、棟方氏とのゆかりも深い