ピアニストの青柳いづみこさんが、祖父、青柳瑞穂さんについて綴ったエッセイ。
青柳いづみこさんは、ドビュッシーを中心としたピアノ演奏活動、音楽教育活動の傍ら、文筆家としても活躍している。現在はかつて祖父が住んでいた阿佐谷の旧家で、ピアノのある部屋と書斎を往ったり来たりの日々だ。本書では、山梨から文学を志して上京後阿佐谷に定住し、フランス文学の翻訳・古美術の収集・評論活動で活躍した青柳瑞穂さんの軌跡を克明に辿っている。祖父と交流のあった阿佐ヶ谷会のメンバーたちを中心にその人達と作品、自身が育った阿佐ヶ谷界隈の歴史についても詳しく描き出し、かつての杉並の姿を彷彿とさせてくれる作品でもある。
おすすめポイント
青柳瑞穂さんの孫娘、青柳いづみこにとって、祖父は影響を受けながらも永く不可解な存在だった。祖父と両親の確執から、少女の頃に引き裂かれた祖父への感情のもつれを解くいとなみが、大器晩成型だった祖父の仕事をまとめ、さらに、音楽家としても、ひとりの芸術家の心の内に迫ることになる。
「ときどき、思いがけず、自分のなかに瑞穂に似た感性を見出して愕然とすることがあった・・・」と、亡き祖父と対話する青柳いづみこさんの姿に、読者はそれぞれの祖父母のことや杉並の地について、振り返り考えさせられる一冊だ。