阿佐ヶ谷ラプソディ

著:又井健太 (ハルキ文庫)

平成23年の第3回角川春樹小説賞受賞の新鋭作家の第2作。阿佐谷を舞台に、阿佐谷を愛する風変わりな住人たちが繰り広げる青春ストーリー。世界放浪の旅から帰国早々無一文になってしまった主人公の蔵川楽観がたどり着いたのは、再開発の波が迫る阿佐谷。「バー・ラプソディ」のバーテンになったポジティブ思考の楽観と、店に集う個性的な常連たちとの交流が、阿佐谷に住民連帯の新しい風を吹き込んでいく様が軽快なタッチで描かれている。区役所前の女性の彫刻から、パールセンターにひっそりとたたずむお地蔵さんまで、随所に有名・無名・虚実とり混ぜた阿佐谷風景が登場し、阿佐谷まち歩きも楽しめる、ご当地色満載の作品だ。
作者インタビュー
著者の又井健太さんは、この作品を書き始めるまでは杉並とは全く縁がなく、小説の舞台と題名は、出版社の角川春樹社長が阿佐谷を歩いている時に天の声を聞き、直感で決めたとのこと。「中央線沿線は、訪れたのは数回程度でした。小説を書くために、阿佐谷に三カ月住んだのですが、魅力的な飲食店が多くて楽しい街ですね。もっと早く来ていればと後悔しました。」と又井さん。「少しは明るい気持ちになれると思うので、是非一度読んでみてください。」との読者へのメッセージもいただいた。
おすすめポイント
登場人物の頭上に阿佐谷パールセンターの入り口が描かれた表紙イラストが、阿佐谷好きの心をくすぐる。全編にちりばめられた小ネタ満載の阿佐谷描写が楽しく、又井さんの生活者としての三カ月間のリサーチが光っている。阿佐谷好きも、ビギナーも、又井さんと主人公が発見した阿佐谷の魅力を体験してみてはどうだろう。読後には、登場人物たちのようにポジティブな気分になれるかもしれない。

DATA

  • 取材:村田理恵
  • 掲載日:2013年06月13日