2007(平成19)年に発刊された小説。高円寺に引っ越してきた主人公・淳之介が庚申通り商店街にある、カツラをかぶっている店長がいる「桂美容室別室」という美容院で働くエリと出会う。恋愛感情か友情か、微妙な関係を紡いでいく。第138回芥川賞候補作。文庫版もあり。
作者インタビュー
ナオコーラさんが物語の舞台を高円寺にした理由は「昼間から大人が歩いている町です。なんの仕事をしているかわからないような方もよく見かけます。効率性重視、とは対極の価値観が漂っているように感じられます。まっすぐにストーリーが進むわけではない、不必要な文章がたくさん混じっている、そういう小説を書きたいと思ったときに、まさにうってつけの舞台だと考えました」とのこと。ご本人も高円寺に2年ほど住んでいたことがあるそうで、商店街が星型に伸びていたことや、その道をあちらこちらへ向かって散歩したことが思い出に残っているそう。杉並でお気に入りの場所は「落ち着いていて、渋くて、大人っぽい雰囲気がある善福寺公園」。
おすすめポイント
登場人物はみんなマイペース。でもお互いの関係性の中で気遣い合っている、年齢も性別も立場も違った「トモダチ」が高円寺らしい。妙齢の男女が出会って友だちになれるのか。やわらかい雰囲気がたのしめる。小説には実在する商店街の名前が出てきたり、「駅前の焼鳥屋」「北口方面にあるライブハウス」「阿佐ヶ谷の映画館」など実際の街の様子を知っていると、その場所を想像できるような描写があるのが嬉しい。
(C)山崎ナオコーラ /河出書房新社