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向田邦子の恋文

著:向田和子 (新潮文庫)

台湾旅行中、飛行機事故で向田邦子さんが不慮の死を遂げてから二十年後、妹の和子さんが、遺品の中から姉の古い書簡の数々を見つける。書簡のやりとりは昭和38年暮れに始まり翌39年明けには途絶えており、相手は姉の恋人だった。自宅のある本天沼、仕事場の都心のホテル、恋人の住む高円寺とあわただしく行き来する、当時の姉の日々を知る。脚本家として頭角をあらわす一方、家族のそれぞれが問題を抱え、長女としての役割を果たしていた時期、一度は別れた相手だったが、再会し、病いで失意の淵にいる恋人に寄り添っていたのだ。九歳年下で、子供の頃から何かと姉を頼ってきた妹は、書簡をとおして、なんでも分かち合える相手を前に自然体でいる姉の素顔に触れ、姉の喜びと苦悩、家族への想いをあらためて実感する。
おすすめポイント
向田邦子さんは、両親と弟、妹二人の家族の長女として、戦争で混乱した家族を支えた。戦後、学校の教師になるからと両親を説得、進学し、アルバイトで学費を稼いで卒業。教師にはならず、自立する女性の新しい職業に挑戦した。書簡は、そうした向田邦子さんの古風な一面と斬新な一面、また、ひとりの女としての姿を垣間見せてくれる。亡き姉との想い出をつづった和子さんのエッセイとともに発刊、映画化もされ、多くの人々に感動をあたえた。戦後復興期の杉並を懸命に生きた一女性の姿を見つけることができる作品だ。

DATA

  • 取材:井上直
  • 掲載日:2012年10月04日