骨董店が目に入ったときに、「何かお宝が紛れていないかな」と思った経験はないだろうか?この本の著者はすごい。なんと杉並の古道具屋で、尾形光琳の肖像画を発見したのである。青柳瑞穂氏は、仏文学者にして詩人、かつ芸術評論家であり、阿佐ヶ谷文士のまとめ役であった。本書は、この威厳ある肩書きを持つ人物が、美しい物との出会いを描いた26篇の随筆である。こう述べるとお堅い芸術書のように思えるが、どっこい作中に出てくる青柳氏は実にユーモラスだ。特技のハエ叩きや、ペットのふくろうとのやりとりなど、気さくなエピソードが骨董話の合間にたくさん盛り込まれている。掘り出し物を見つけるための条件として、「ウン(運)、ガン(眼)、キン(金)の三ンがそれである」と記す青柳氏。実際に氏が体験した、価値ある中皿や壺などとの運命的な出会いが書かれており、ともすれば私も!?という気持ちにさせられる。読売文学賞受賞作。
おすすめポイント
当時のニュースにもなった、昭和12年の光琳肖像画発見の経緯が詳しく語られている。残念ながら、この舞台となった蚕糸試験場近くの古道具屋は現存していない。だが、杉並区には今も、西荻窪を中心にアンティークショップや古書店、古着屋が数多く並んでいる。本書で目利きのコツを学んだら、青柳氏が阿佐ヶ谷駅・荻窪の骨董店を訪ねていたのにあやかって、杉並掘り出し物探しに出かけてみてはいかがだろうか。