高円寺北中通りにある古本酒場コクテイルは、古本が買える居酒屋だ。店先にも店内にもズラリと古書が並んでいる。酒の肴(さかな)は、「壇一雄の大正コロッケ」など、文士ゆかりの料理。本好き酒好きにはたまらなく魅力のある店だ。
本書は、店主の狩野俊さんが日々の所感を綴ったエッセイ。前半は、店が現在の場所に移転する前、高円寺あづま通りに店を構えていた時代に書いた日記を収録(2006-2008年)。著者が、昼間は古書の買付け、夜は居酒屋店主と二足のわらじを履いて、高円寺北にある銭湯小杉湯で疲れを取りつつ、店を切り盛りする様子が綴られている。後半は、1998(平成10)年に国立市で開店してから、2年後に高円寺へ移転するまでの奮戦記と、狩野さんが高円寺の西部古書会館で出会った2人の先輩古書店主へのインタビューが収められている。
作者インタビュー
「北中通りは旧・馬橋地区に残る唯一の商店街。いわゆる広域の“高円寺”とは一味違う、古風で人間臭い付き合いが残っています。この本を書いたころより、店も私もさらに地域密着型になりました。」(狩野さん)
おすすめポイント
店を訪れる人々が実に魅力的だ。ミュージシャン、古書店仲間、店の内装工事を引き受けた大工のおじいさんなど、商売ベタだという著者を支えるべく、さまざまな人たちが奔走する。また、本書には角田光代さん、山崎ナオコーラさん、井上荒野さん、長嶋有さんをはじめ、著名な文士たちが次々と登場し、同店でトークイベントを繰り広げる。マンガ『孤独のグルメ』の原作者・久住昌之さんも、この店を愛する1人として何度も来店。「古本酒場」の夜を盛り上げてきたメンバーの豪華さに驚く。昔の文化人が書いた書簡を売買する際、本物である旨を証明する誓約書を書く様子など、古書業界のリアルな描写も興味深い。