明るい店内の書棚に厳選された本が整然と並ぶ盛林堂書房(せいりんどうしょぼう)。特にミステリ小説や純文学が充実しており、ファンを魅了してやまない古書店だ。
創業は1949(昭和24)年。地方から上京し池袋の高野書店に勤めていた小野源三郎さん(故人)が、独立して吉祥寺駅の近くに店を開いた。1年後、当時吉祥寺より賑わっていたという西荻窪の、南口から徒歩約3分の現在の場所に移転。途中建物の建替はあったが、以来ずっと同じ場所で営業している。源三郎さんの頃の盛林堂は、日本でも有数の山岳書専門店として知られていたという。また西荻窪という土地柄、井伏鱒二や開高健、松本清張といった作家も訪れる店だった。
現店主は源三郎さんの孫、小野純一さん。純一さんが大学を卒業して間もない2004(平成16)年に源三郎さんが急逝し、家族会議の結果、急遽店を継ぐことになったそうだ。源三郎さんは一代で店を閉めるつもりだったため、純一さんはそれまで店の経営に関わっておらず、当初は店番として番台に座り、一日ずっと店の本を読んで過ごす日々だった。やがて純文学や大衆文学に詳しい客から勧められた本を読んだり、店に並べたりしているうちに、自身で古書店経営のノウハウを蓄積していった。
小野さんは、角川文庫の横溝正史作品などに端を発し、筋書きの面白さもさることながら、装丁も立派で美しいものを多く見るうち、本そのものの魅力にも気づいたという。もともと純文学好きでもあったため、店のラインアップは次第に昭和の探偵小説や純文学が多くを占めるようになった。
また、現在では忘れられているが是非多くの人に読んでほしい作家や、その作品を知ってもらうため、復刻同人誌の出版を2012(平成24)年末頃に始めた。これまでに幻想文学、ミステリ、児童向小説や詩集、モダニスム文学など、60冊を超える書籍を出版している。現在は主に、戦中に若くして亡くなった探偵小説家・大阪圭吉の作品を復刻すべく、資料・情報収集を行っている。出版がきっかけで店の存在を知ってもらえることも増えたとのこと。「限られた店の棚は自分たちやお客様のこだわりで選んだ本ばかりになったが、新たな領域も開拓していきたい。一人でも多くの方に来店いただけるように、出版を続け、情報発信も増やしていきたい」。祖父の跡をたまたま継いだ古書店だが、小野さんは店主として自分自身のこだわりを求め続けている。