山田詠美さんが描く、杉並に縁の深い二人が西荻窪で愛を育んでいく物語。
五日市街道沿いで友人と花屋を経営する斎藤慈雨(じう)と、西荻窪の予備校で講師を務める北村栄(さかえ)は、ともに40代半ばで独身。慈雨は三鷹、栄は西荻窪の生家に暮らしている。二人は、飲食店、善福寺川へ向かう散歩道、栄の住む古い日本家屋で、たわいもない会話を交わしながら日々を過ごす。互いの存在がかけがえのないものになっていく過程が、ユーモラスなやりとりと、慈雨が栄も含めた他者との関係に思いを巡らす姿を通して鮮やかに浮かび上がる。
ドラマチックな出来事がほぼ起こらない地味な中年男女の物語が、魅力的な「西荻窪ラブストーリー」になっており、直木賞作家の山田さんの筆力の冴えを堪能できる作品だ。