郷土史家・森泰樹(もり やすじ)氏が杉並の地域ごとの歴史・伝説等をまとめた大著。後世の人々が杉並を研究する上で必要な資料として残したいという思いから企画制作したといわれている。
杉並の旧20ヶ村(※1)を上・中・下の3巻に分け、各村の古代から現代までの歴史・伝説・民俗・神社仏閣などを解説している。上巻は1977(昭和52)年、中巻は1987(昭和62)年、下巻は1989(平成元)年に出版。森氏は下巻のあとがきで「草稿を書きはじめてから足掛け二十年かかりました」と記している。題字はいずれも谷川徹三氏(※2)による。
▼関連情報
すぎなみ学倶楽部 ゆかりの人々>知られざる偉人>森泰樹さん【前編】
すぎなみ学倶楽部 ゆかりの人々>知られざる偉人>森泰樹さん【後編】
この本の一番の特長は読みやすさにある。上巻472ページ、中巻475ページ、下巻564ページとかなりのボリュームだが、各巻ともほぼ全ページに写真や地図、図表が大きく載っており、わかりやすく、多さを感じさせない。文章は「です」「ます」の口語体で記されており、表現も軟らかい。また、旧村ごとにまとめられているので、自分が住んでいる地域や調べたい地域を絞り込み、目的に応じて読むことが可能だ。
上巻 「杉並郷土史叢書(※3)3」
旧下荻窪村、旧上荻窪村、旧上井草村、旧下井草村、旧成宗村、旧田端村を紹介。巻末には、学徒動員中に22歳の若さで亡くなった梅田芳明(よしあき)が遺した郷土史研究資料「武州多摩郡上荻久保村風景変遷誌」を掲載。
中巻 「杉並郷土史叢書5」
旧高円寺村、旧馬橋村、旧阿佐ヶ谷村、旧天沼村を紹介。第3章に天沼にあったという説がある古代の駅址(あと)の場所を考察した論文「乗瀦駅址は練馬である」、第4章に「蚕糸試験場本館保存運動てんまつ記」を掲載。
下巻 「杉並郷土史叢書6」
旧和田堀内村(旧和田村・旧堀之内村・旧和泉村・旧永福寺村に相当)、旧高井戸村(旧上高井戸村・旧下高井戸村・旧大宮前新田・旧中高井戸村・旧松庵村・旧久ヶ山村)を紹介。
※村名は本書の表記どおり
※1 杉並の旧20ヶ村:現在の杉並区の区域は江戸時代は武蔵国多摩郡に属し、20村があった。1889(明治22)年の市制・町村制施行により合併され、杉並村、和田堀内村、井荻村、高井戸村の4村となった。合併による4村を旧4村、市制・町村制施行以前の20村を旧20ヶ村と称する
※2 谷川徹三:哲学者。詩人・谷川俊太郎の父
※3 杉並郷土史叢書(そうしょ):叢書とは、一連の書物、シリーズのこと。全6巻の「杉並郷土史叢書」のうちの3巻、5巻、6巻が『杉並風土記』として出版された