富士北麓に位置する山梨県南都留郡忍野村(おしのむら)。富士山の眺めが美しいことで知られており、村章にも富士山が描かれている。杉並区内からは車でも電車でも2時間半ほどで行ける、自然の魅力を満喫できる観光地だ。
「しのびのむら」と読み間違えられるのは忍野村あるあるだそうだが、忍者の里ではなく名水の里だ。富士山の伏流水を水源とする8つの湧水池「忍野八海」や、村内を流れる桂川(かつらがわ)、新名庄川(しんなしょうがわ)など、水と自然が生み出す風景が素晴らしい。
例年8月8日には「八海祭り」が開催される。盆踊り大会や高座山(たかざすやま)の「八文字焼き」などが行われ、花火大会でクライマックスを迎える。また、例年6月には、忍野村を囲む山々の稜線(りょうせん)を走り抜ける「富士忍野高原トレイルレース」が行われる。
▼関連情報
忍野村(外部リンク)
忍野村公式観光ホームページ>八海祭り(外部リンク)
富士忍野高原トレイルレース(外部リンク)
すぎなみ学倶楽部 文化・雑学>てくてく×なみすけpart3>日本一の富士山とドリンク!「忍野村」取材日記
区と忍野村は、2012(平成24)年8月27日に災害時相互援助に関する協定を締結。大規模な地震等の災害が発生した場合に、両自治体が協力し合うことを目的としている。また、区内で開催される物産展や忍野富士の写真展などを通じ、交流を深めている。
※「富士学園」は閉館しました
宿泊施設「富士学園」は、忍野村と区の交流のきっかけとなった場所だ。
1964(昭和39)年、区は忍野村に校外学習施設として「富士学園」を設置した。現在も区立小学校の5年生が移動教室で訪れている。
児童は移動教室で「富士湧水の里水族館」「富士山レーダードーム館」などの周辺施設の見学や、民宿でのほうとう作り、高座山登山などを体験。施設内では、肝試しやソフトクリーム巻き体験などを楽しみながら、充実した時間を過ごしている。
名物のからくり時計「猿時計」も児童に人気だ。山梨県大月市にある日本三奇橋(※)の一つ「甲斐の猿橋」の伝説がモチーフになっており、奇数の時間になると、時計の扉が開き猿がつながっている姿が現れる。区内の工房で作られた縁があり、流れてくるメロディには阿波おどり風の音楽が使われている。
忍野八海は、古くは富士修験者の水行の霊場であったが、荒廃していたため、江戸時代に北極星と北斗七星に見立てて八つに配置し、八大竜王を祀(まつ)った。そして、富士講の登拝前の儀礼になぞらえた八海巡礼ルートを整えることで聖地として村を復興させたという。
今も四季折々の景観の美しさで多くの人を魅了し、村を支えている大切な存在だ。また、名水を生かしたそばやうどん、豆腐なども格別なので、訪れた際は村の名店で味わってほしい。
忍野村は標高936mの高原の地にあり、昼夜の寒暖差が大きく、甘いトウモロコシが育つ。忍野村役場観光産業課の天野さんは「夜に甘味が増すので、朝採ったトウモロコシが一番甘い。糖度は15度以上あり、スイカやメロンにも負けません」と語る。
2017(平成29)年、遊休農地の増加を解消したい背景から特産品の開発をスタート。トウモロコシを使って通年販売できる商品を作るため、村民と共に特産品開発部会を立ち上げた。勉強会を重ねる中、発酵食品研究の権威である山梨大学の柳田藤寿教授から、富士湧水から植物性乳酸菌を採取する提案があり、トウモロコシと掛け合わせたドリンク開発が本格化。約4年の歳月をかけ「とうもろこしドリンク」が完成した。「後味に残るトウモロコシのすっきりとした甘さがお勧めポイントです」と天野さん。
2022(令和4)年には、任意団体「忍野村特産品開発協議会」を設立し、トウモロコシを使った特産品第二弾の企画も進めている。
富士山眺望の名所「二十曲峠(にじゅうまがりとうげ)」に、2022(令和4)年8月頃、「二十曲峠展望テラス」が完成予定だ(※)。標高1,151.5mの峠に張り出した三角形のデッキから富士山の景観を堪能できる。テラスにはテーブルやベンチのほか、ハンモックを設置。新しい観光名所として多くの人の憩いの場となりそうだ。車やバスでのアクセスが手軽だが、ハイキングルートの整備も検討されているので、散策しながら向かうのも楽しいだろう。
また、忍野村では「富士忍野グランプリフォトコンテスト」が毎年開催されている。杉並区役所でも、例年コンテスト入賞作品の展示が行われ、数々の美しい写真を見ることができる。
※加筆 2022年9月13日に、忍野村二十曲峠展望テラス「SORA no IRO」がオープンした
2022(令和4)年5月に、富士山が一望できる桂川のほとりに、グランピング施設「グランドーム富士忍野」がオープンした。全8棟それぞれに温泉が付いており、バーベキューやたき火ができるスペースも備わっている。一番人気はプール付きのヴィラタイプで、予約が取りにくい状況が続いているそうだ。マネージャーの渡辺さんは「サウナや、山梨ワインを無料で楽しめるサービスも好評です」と話す。
施設の近隣には、子供に人気の「忍野しのびの里」がある。忍者に変身してからくり屋敷の謎を解いたり、迫力の忍者ショーを見物したりできるテーマパークだ。また、近くを流れる桂川で釣りも楽しめる。「忍野村の桂川は日本有数のフライフィッシングの聖地なので、一度は釣りを楽しんでみてはいかがでしょう」と、忍野村役場企画課の後藤さんも勧めてくれた。
『忍野八海ものがたり』鷹野慈誠原案・監修 こいでなつこ作・絵(忍野村)