えっ、これが太平洋戦争の頃の思い出話?と驚いてしまうほど、明るくユーモアたっぷりに描かれた、元杉並区民・はら ただおさんの少年時代の物語。
主人公のターちゃんは、荻窪の四面道近くに住むわんぱく少年だ。勉強は苦手だけど、ひらめきと行動力は天下一品。戦時中の物資不足でまきがなければ、米軍機が落とした油脂焼夷弾(ゆししょういだん)の不発弾を拾い、中身の油脂を燃料に風呂を沸かしてみる。戦後の食糧難にあっては、魚とりを禁止されている井の頭公園のコイを釣って食べるため、スケッチをするふりで管理人の目を盗み、悪ガキ仲間と連携して目的を達成(おいしくなかったので二度とやらなかったというオチあり)。「苦労ばかりしていた終戦前後にも、こんなに面白かった想い出もあったことを懐古して頂くための大人の童話として(中略)書き上げたものです」と、前書きにある通り、まるで『トム・ソーヤの冒険』のようなわくわくするエピソードが満載だ。
釣り好きだったターちゃんは、寿々木園と思われる阿佐谷の釣り堀や、善福寺川など、区内のあちこちで小中学校の仲間たちと魚とりに挑戦している。妙正寺池では、岸から離れた場所に生息する大きな魚を狙って、杉の木でいかだを作り、ポイントに接近して釣るという大がかりなことをやってのけるのだから痛快だ。
楽しい冒険談と合わせて、当時の物価や交通事情、学校生活などについても詳しく書かれており、終戦前後の杉並の暮らしを知る参考にもなる。
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※本書は絶版となっている。区立図書館に蔵書がある
『躍進の杉並』昭和28年発行(躍進の杉並刊行会)