2階展示室。円錐形のライトはオリジナルデザイン
荻外荘展示棟は、2025(令和7)年7月16日、荻外荘の東側、細い道路を隔てた向かい側にオープンした。杉並区は、荻外荘の復原整備に取り組む中で、2021(令和3)年にこの土地を取得し、荻外荘来訪者や地域の人々が一休みできる、また荻外荘や荻窪に関する資料などを展示できる施設の建設を計画した。設計者は公募により隈研吾建築都市設計事務所が選ばれた。1階には、カフェとショップがあり、2階は展示室になっている。展示は常設展と企画展があり、オープンから2025(令和7)年11月3日までの企画展では「特別展 近衞家 荻窪でのくらし」と題した展示がされている。特別展は、不定期に展示替えされる予定だ。
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展示棟の姿は、控えめでありながら、周囲に埋もれることなく、荻外荘や屋敷林、さらに隣接する住宅と調和しているように見える。外観でまず目を引くのは、屋根の形である。屋根頂部は10メートル近い高さがあるが、そこから柔らかくなだらかな曲線を描いて軒を広げていく多角形のシルエットは、荻外荘と同じ平家(ひらや)のような風情を醸し出している。また、展示棟の周囲には、四季折々に変化する庭が楽しめるように、さまざまな植物が植えられた。その一部は設計事業者のデザインに沿って区の職員が植え付けを行った。もともとあった木々もできるだけ残された。特に目を引くのは昔からこの地を見守り続けたケヤキの大木で、今も展示棟に寄り添うように大きな枝を広げている。かつて荻窪のあちらこちらにあった屋敷林の雰囲気を伝えるこの木を残すために、展示棟の位置も調整されたという。
1階は、緑豊かな庭の植栽や荻外荘を眺めながらゆったりとくつろげるカフェと、荻外荘グッズなどが買えるショップがある。カフェでは、区内の人気店のスイーツやフード、テイクアウトできるお弁当や、季節ごとに変わるメニューも楽しめる。
ショップでは、荻外荘関連の書籍や文房具のほか、お菓子の詰め合わせや、荻外荘オリジナルデザインのレジャーシートやドリンクボトルもある。天気のよい日は、荻外荘公園の芝生広場にレジャーシートを広げ、荻外荘を見上げながら、テイクアウトした弁当を頂くのも楽しそうだ。2階の展示室に上がるにはエレベーターもある。手荷物が多い場合は、階段裏にある無料ロッカーに預けることもできる。
2階に上がると、展示室のほの暗さに、一瞬驚かされる。屋根頂部から傘の骨のように広がる梁と、黒い壁面で構成された展示室の静謐(せいひつ)な空気に触れ、昔の荻窪にタイムスリップしたかのように感じられた。天井は耐火被覆(ひふく)材が施された骨組みをあえてデザインとして見せているという。
常設展は、かつてこの場所を含む広大な土地を所有していた実業家・山田直矢をはじめ、荻窪で暮らした著名人とともに、荻窪のまちの成り立ちを紹介する。また、昭和38年当時の荻窪地域の大きな地図が目を引く。かつてこの地に住んでいた芸術家や、政治家、実業家たちの名前が書き込まれている。「特別展 近衞家 荻窪でのくらし」は、近衞文麿の荻外荘での生活を中心に展示。宰相近衞文麿ではなく、「荻外荘の暮らしを愛した近衞さん」の姿を伝える資料や調度品などが、明るいガラスケースの中に並べられていた。