西荻窪駅にある38年続く喫茶店が「物豆奇(ものずき)」である(2013年現在)。古時計や石油ランプなど多くの骨董品が店内を飾る。これは店主の山田さんの趣味ですか?と訪ねると「違う」との答え。山田さんは実は2代目だ。「1代目が店を継いでくれる人を探していたんだよ。それで俺も喫茶店への憧れがあったから、たまたま2代目になった」と語る。1代目が2年、2代目の山田さんが36年、こうなれば「たまたま」ではなく運命かもしれない。
独特な店の内装もいっさい手を付けることはなく、現状維持を心がけている。「1代目が骨董品が好きでさぁ、全国から集めて来たんだよ。柱も昔の民家の再利用。“店を作っている最中が1番楽しかった”と言ってたよ」と話してくれた。
コーヒーに関して伺うと、米に例えて説明をしてくれた。「コシヒカリやあきたこまちと同じで、それぞれが好きな味を見つけて楽しめばいい。ただコシヒカリにもランクがあるのと同じでコーヒー豆にもランクがある。うちは良いの使ってるよ。」1番のおすすめはブレンドでモカ、コロンビア、ブラジル、マンデリンを混合したものだ。
36年もやっていると喫茶店の意義も変わる。昔は待ち合わせ場所として使用され、電話が鳴っては「○○は居ますか?10分遅れると伝えて!」などと言われたそうだ。携帯電話なき時代の話である。現在は女性客で満席になることも多く、女性のパワーを感じるそうだ。
街の景色や文化、人はどんどんと移り変わる。しかし『物豆奇』だけは変わらない。