高円寺南の環七沿いに飲食店が並ぶ一角がある。その南端にらぁめん 山と樹がオープンしたのは2017(平成29)年のことだ。
「店名は、オーナーと私の名前を一字ずつ合わせたものなんです」と、店長の冨山裕介(とみやま ゆうすけ)さん。オーナーは八王子の「らーめん楓(かえで)」の店主、井ノ川晴樹(いのかわ はるき)さんだ。冨山さんは10数年前、イタリア料理修業中にオーナーと出会った。もともとラーメン好きだった冨山さんはオーナーから話を聞くたびにラーメンの魅力にはまっていき、やがて「楓」に転職。約10年勤務した後、山と樹を任された。
店では冨山さんオリジナルのラーメンを提供している。基本のスープは鶏ガラをベースに昆布、かつお節、煮干しなど乾物で深みをプラス。「らぁめん」「塩らぁめん」のどちらも塩味とうま味のバランスが絶妙で、スープを飲み干したくなるほど。北海道産小麦「春よ恋」だけを使い、店内で製麺する自家製麺も魅力の一つ。定番のラーメンとつけめんに使うのは、加水率(※1)の高い多加水麺。小麦の風味や、強力粉である「春よ恋」ならではのむちむちした弾力とつるりとした舌触りが楽しめる。スープ絡みもよく、麺をすするとさまざまな味の要素が口の中で一体化する。
定番メニューの他に、季節限定、数量限定といった期間限定メニューがある。季節の素材を使い、食欲を刺激する工夫を凝らした逸品で、楽しみにしている常連も多い。ちなみに2019(令和元)年中に提供した季節限定メニューは「味噌らぁめん」「鯛とあさりだしの塩らぁめん」「冷やし中華」「サンマだし中華そば」だ。限定メニューの中には、イタリア料理修業時代に培ったオーブン調理のテクニックも生かされている。たとえば、「サンマだし中華そば」のチャーシューは低温調理したローストポークで、キノコもオーブンでじっくり加熱したもの。仕上げには、修業時代に知ったというトリュフオイルが振りかけられている。
また、冨山さんが意欲をそそる素材と出会ったときには、「岩手鴨のチャーシュー麺」のような数量限定のレアメニューが不定期に繰り出される。限定メニューの情報は公式ホームページにアップされるので、こまめにチェックしよう。
「高円寺のお客様は飲食業界の方が意外と多いです。“普段ラーメンは食べないんだけど、同業の友達からうまいって聞いたから”と親しく話し掛けてくれます。飲食関係のネットワークがしっかりした街だと思います」と話す冨山さん。開店に合わせて住まいを高円寺に移したそうだ。「気になっているお店はいっぱいあるのですが、忙しくて全く行けていないんです。高円寺は個性的な店や人が多いので、これからが楽しみです」
【こだわり】化学調味料に頼らず、素材とそのうま味だけでラーメンのおいしさを追求する
・他のラーメン:「つけめん」「塩つけめん」「特製らぁめん」限定メニューなど
・メニュー:ごはん、バラチャーシュー丼/ビール/トッピング:チャーシュー、あじ玉、メンマ、青ねぎ、のり/大盛300g
・ラーメン専門店
・カウンター10席
・子供可
・2017(平成29)年1月24日開業
※1 加水率:麺を作るときの粉に対する水の割合で、35%以上を多加水麺、30%以下を低加水麺という。多加水麺は佐野ラーメンや喜多方ラーメン、低加水麺は博多ラーメンが代表格
※2 チョーコー醤油:良質な原料にこだわる長崎の醤油メーカー
※3 カンホアの塩と矢堅目(やがため)の塩:ベトナムの天日塩と、長崎県五島列島で作られる直火炊きの塩。どちらも塩味が尖(とが)っていないまるみのある海塩