高南通りに「高円寺ラーメン タロー軒」の黄色いのれんがはためく。いつ店の前を通っても誰かしらラーメンをすすっている風景が見られる。
1978(昭和53)年7月のオープン以来、提供するラーメンは醤油のみ。豚肉・豚骨をメインに、鶏ガラ、昆布、煮干し、しいたけ、野菜で作ったスープで、醤油だれを割る。麺は中細のストレート。やわらかい⾷感で、豚と野菜の甘みが溶け込んだスープとよく絡み、するするっと腹に収まる。昔懐かしい味わいのシンプルなラーメンだが、ボリューム満点で、一般的な店の麺が120~150gなのに対しタロー軒は160g。スープでほろほろになるまで煮込んだチャーシュー2枚、ワカメ、メンマ、ネギの小口切りに白髪ネギと、具もたっぷりのっている。「うちのお客様は男が多いから、ボリュームを出さないと」と、店主の荒木覚(あらき さとる)さんは言う。
荒木さんはタロー軒を経営する「有限会社あら喜や」の代表取締役で、スタッフや常連からは「社長」と呼ばれている。18歳から洋食店のコックをしてたが、ファミレスが台頭した昭和45~50年頃、手軽に食べられる料理の時代が来ると考え、ラーメン店を始める決意をした。
26歳でコックを辞めたあと、1976(昭和51)年、西武新宿線野方駅近くの環七沿いにタロー軒1号店をオープン(※)。夜間に走るタクシーの目に入りやすいよう24時間営業とした。目論見(もくろみ)は当たり、オープン初日からタクシードライバーを中心に多くの客が詰めかけたという。
盛況な折に2号店の出店を考えていると、常連から「いい場所があるよ」と情報をもらった。それが現在のタロー軒だ。場所柄サラリーマンや学生が酒の締めに訪れ、ラーメンブームになると遠方からフリークも来た。常連には俳優やお笑い系の芸能人なども少なくないそうだ。
1年24時間休みはない。3交代制で営業しているが、荒木さんが一番きつい深夜2時~朝10時を担当する。「大変かとよく聞かれるけど、働き続けていれば認知症にもならない」と荒木さんは笑う。常連いわく「社長の作るラーメンが一番うまい」そうだ。
ラーメンを作りながら、客にポンポンと声をかける荒木さん。「ごちそうさま」に「ありがとう」が続く、ラーメンを通じた温かい心の交流を感じた。
※1号店は現在は閉店