高円寺駅北口から徒歩約2分、飲食店やスーパーなどが立ち並ぶ通りにしげくに屋55ベーカリーがオープンしたのは2012(平成24)年。木のぬくもりを感じるショーケースに40種類ほどのパンが並んでおり、カウンター越しに店員に伝えて購入する。この対面販売スタイルにしたのは、店主の青木啓恵(あおき ひろえ)さんが「人と話をしたかったから」。会話から生まれる信頼関係を大事にするやり方は、生産者や店のスタッフに対しても同じ。そうして話してきた中で人として尊敬や共鳴できる相手と組み、支え合って店もパンも作り上げる。例えば、小麦粉を仕入れている北海道の契約農家は、過疎化する地域の復興に力を入れている。そのような姿勢に感銘を受け、パンに利用することで生産者を全力で支えるのがしげくに屋のやり方だという。
「うちのパンは特別にこれといった特徴はない。自然とそこにある、日々の生活の支えになるパンであり続けたい」。食卓はもちろん、ピクニックや仕事場やイベント、そんないろいろな風景に合うパン。「パンは料理やお酒の脇役でもいい、より多くの風景と巡り合わせたい」としげくに屋は考える。
1999(平成11)年に武蔵境でスタートしてから、何度となく移転をしたり、有名マルシェの青山ファーマーズマーケットに出店したり、店の在り方は試行錯誤を続けてきたが「昨日より今日、今日より明日と、おいしくなるように」という気持ちでパンに向き合っていることは変わらない。
「高円寺に店を構えたのは偶然だった」と啓恵さんは話す。今では、通りに顔を出すとあちこちから声を掛けられ、街の人々に親しまれている様子が伺える。以前からの客や評判を聞いた人が遠方から足を運んでくれてもいたが、新型コロナウイルス感染拡大で客足が減った時は、地元の商売仲間や常連客の支えが力になった。いろいろな場所で販売をしてきた啓恵さんだが、「高円寺は商店街が生きている街で好き」と話していた。