慶(よし)珈琲は、富士見ヶ丘駅南口より徒歩約1分、神田川沿いのマンションの1階にある。
店主の宮澤さんは岩手県出身だ。20代の初め、盛岡市にある喫茶店「クラムボン」の自家焙煎(ばいせん)コーヒーがとてもおいしいと感じ、気になる深煎(い)りコーヒー店の豆を取り寄せた。一番衝撃を受けたのは、かつて表参道にあった大坊珈琲店(※2)の味だったという。深煎りのネルドリップコーヒーにすっかり魅了され、全国の行ってみたいコーヒー店巡りを始める。「大坊珈琲店は、深煎りの中でも甘味が強く、店の雰囲気、時間の流れ、店主の大坊さんが全身全霊で一杯のコーヒーを丁寧に作る姿に胸を打たれました」。2006(平成18)年から約8年間、大坊珈琲店で勤務した後、2017(平成29)年11月に慶珈琲を開店した。
扉を開けた瞬間からコーヒー豆の香りが広がる店内に入ると、カウンター越しに宮澤さんが穏やかに迎えてくれる。アンティークショップを巡って選んだテーブルや椅子、大坊珈琲店から譲り受けた水差し、手回しの焙煎機などが並ぶこだわりの空間だ。「ジーンズや染物の藍色が好きで、店内の壁は縹色(はなだいろ)を藍色よりに調合してもらいました。隣の席との間隔が広いので、一息つきたい人や読書をしたい人にお勧めですよ」
宮澤さんは富士見ヶ丘が気に入っている。「静かなところで店を持ちたいと思っていたので、この街の雰囲気はぴったりです。近隣の人も来てくれるし、温かい人が多い。富士見ヶ丘に来てよかった」。また、出身地の岩手県とのつながりも大切にしており、2019(令和元)年からは「盛岡珈琲フェスティバル」に参加し、コーヒー豆を提供している。
ブレンドコーヒーにはエチオピア、タンザニアを始めとする7種類の豆を使用。1kgの豆を約40分間、手回しの焙煎機で火加減を見ながら焙煎する作業は、つきっきりだ。「自分の肌の感覚で焙煎するのが一番気持ちが入ります。手間暇かけた分、豆が応えてくれますね」。「ストレート」(800円)と、5種類の濃さ(NO.1~NO.5)から選べる「ブレンド」(650~750円)があり、宮澤さんお勧めは、最も濃度が濃く、うま味と甘味を強く感じるNO.4だ。「深煎りのコーヒーは苦いと思われがちですが、初めてでも飲みやすいと思います。好みのコーヒーを純粋に味わってもらいたい」
注文が入ってから豆を挽(ひ)き、丁寧に抽出したコーヒーを、瑠璃色のラインが上品な「大倉陶園」のカップに注ぐ。「間口が広いデザインは口元に運んだ時に香りが鼻まで広がる。カップの口当たりの良さも当店のコーヒーの味と合いますね」
デザートには「チーズケーキ」(450円)や「バニラアイスクリーム」(500円)、コーヒー以外のドリンクは、岩手県の名産品である「紫蘇(しそ)ジュース」(650円)や「りんごジュース」(650円)がある。
※1 大倉(おおくら)陶園:1919(大正8)年創業の陶磁器メーカー。洋食器や、美術的価値の高い陶磁器を製造販売
※2 大坊(だいぼう)珈琲店:表参道交差点の近くにあった名店。2013(平成25)年に閉店