JR高円寺駅から阿佐谷方面に向かう線路の高架下に事務所をかまえる認定特定非営利活動法人NPOカタリバ。「携帯電話で事務所の地図を調べると線路の上にあるように思われてしまうんですよ」と笑うのはカタリバ事業部の木村真理子さん。
カタリバは法人格を持つ事業型NPOだ。代表の今村久美氏と三箇山(みかやま)優香氏が2001年に学生団体として設立。きっかけは、今村氏がチャレンジに満ち溢れた環境で大学生活を過ごしているのとは逆に、毎日つまらないと話す別の大学へ通う友人を見て、若者が未来を生き抜く力が、育った環境によって左右される社会課題を解決したいと考えたことからだ。現在、高校生へのキャリア学習プログラム「カタリ場」と東北支援事業「コラボ・スクール」を主な活動として行っている。2010年にアクセスが良くボランティアが集まりやすいこともあり高円寺へ事務所を移転した。
授業ではまずグループをつくりキャストが生徒と個別に話をして、生徒が自分の現在を掘り下げる。次にキャストがそれぞれの成功体験や失敗体験から学んだことを紙芝居形式で話をする。ここで生徒は自分の未来を考えるにあたってのモデルを見つけることができる。最後にキャストと対話をしながら理想とする未来にどうやったら近づけるか、明日から実行できる行動目標を設定する。「その場で生徒の心に火を灯すことができても、その後の生活に私たちは関わることができないので、付いた火を灯し続けられるような行動目標を一緒に見つけます。」
「特に大事にしていることは、対話をすることです。私たちはアドバイザーではないので何かを教えたり押しつけたりしないよう心がけています。つい導いてあげたくなってしまうこともありますが、その生徒の個性に合ったやり方で時間をかけてコミュニケーションを取り、自分で目標を考えてもらうように努めています。」
杉並区の高校でも2校でカタリ場が導入されており、さらに地域の教育と連携していきたいと考えている。高校生の多感な時期に自分の過去、現在、未来を見つめ直す機会が得られることはとても貴重な時間となることだろう。このカタリ場の授業、大人でも受けてみたいと思いませんか?
もう一つの主要事業となるのが東北復興事業「コラボ・スクール」の運営だ。2011年3月に起こった東日本大震災を機に、被災地への継続的な支援を目的として発足した「ハタチ基金」。この基金の支援事業の一つとして、カタリバではこれまでの高校での授業の経験を生かし、宮城県女川(おながわ)町と岩手県大槌町で放課後学校を運営している。2012年には両校合わせ約400名が利用した。震災のせいで将来の夢を諦めた、という思いをしてほしくないと学習支援の場を作るとともに、心のケアと学校・家以外の居場所をつくることも目的とされている。さらに東北の復興を担うリーダーの輩出を目指して、震災後の町の課題を解決するため高校生がプロジェクトを立ち上げるのをサポートしている。「彼らの取り組みからは、イノベーションが生まれつつあります。子どもたちが町長さんに企画を提案したり、クラウドファウンディングのような形で資金を募りアイデアを実行しています」と、支援の一歩先をいく取り組みを行っている。