阿佐ヶ谷駅から北へ徒歩10数分、閑静な住宅街に溶け込むかのようにAさんの家は姿を現す。かつてこの公園の敷地には豊かな緑の庭を備えた洋風住宅が建ち、地域に親しまれると同時に、昭和初期の杉並の文化・生活を今に伝える役割を果たしていた。映画監督の宮崎駿さんも著書『トトロの住む家』でこの住宅を「たからもの」「植物へのいたわりを忘れない家」と称賛。その後、持ち主の引越しにより空き家になった際には、取壊しを防ぐため6,300余りもの署名が寄せられた。これを受けて区が土地を取得。住宅を保存して地域住民と協働で公園計画の検討を進めていたが、2009(平成21)年2月、火災により住宅部分72.72㎡が焼失した。
事情を知った宮崎監督が、旧住宅の雰囲気を活かした公園デザインの寄付を区に申し出て、基本構想図とイメージスケッチを提供。これらをもとに区が設計と整備を進め、2010(平成22)年7月25日、Aさんの庭が開園した。公園名は、宮崎監督の提案を受けて地域住民と共に決定したもの。「Aさん」は「公園を訪れる皆さん」を表している。
「かつてこの地にあった住宅の佇まいを風景として継承すること」が、公園施設設計時のコンセプト。実際にトトロが現れそうな建物は、実はトイレ兼防災倉庫。茶色の外壁と白い窓枠のコントラストが懐かしさを感じさせ、通行人も、緑の中から姿を現す建物のかわいらしさに思わず足を止める。遠くからでも目立つオレンジ色の屋根瓦は、現在製作されていない貴重な素焼きで、古い建物を思い出してもらいたいとの願いから、火災で焼け残って黒ずんだり古びた瓦もあえて使用している。
住宅と共に歴史を刻んできた手押し式井戸や白い木の門も、旧居の面影をできるだけ残している。庭園には、バラ、タイサンボク、キンモクセイなど種類豊富な樹木や花々が、旧住宅の装いそのままに民家の庭を思わせる自然な形で茂り、四季折々の彩りが来園者の目を楽しませる。対して、新たにシンボルツリーとして南側に植えられたコブシの伸びやかな成長ぶりにも思わず引き寄せられる。木の周りの石積の囲いは、数十年経っても皆がこの地に集い腰を下ろせるようにとの配慮と願いから造築された。
公園の維持・管理は、杉並区と、すぎなみ公園育て組が担当。植栽への丁寧な水やりをはじめ、隅々まで愛情を込めた手入れが毎日行われている。
さまざまな関係者の積年の努力と熱意によって完成し、美しく維持されている公園。懐かしい時代にタイムスリップした気分で散策を楽しみたい。
広さ:829.83㎡
駐車場:なし
駐輪場:あり
水遊び場:なし
ボール遊び場:なし
犬連れ:不可
トイレ:あり
バリアフリートイレ:あり
売店:なし
飲料自販機:なし
管理事務所:なし
防災設備:防災井戸、防災倉庫
『トトロの住む家』宮崎駿(朝日新聞社)