荻窪駅南口から徒歩約15分、俳人で角川書店を創設した故角川源義(げんよし)氏の旧邸宅を、2005(平成17)年にご遺族から寄贈を受け、整備して作られた杉並区立角川庭園。2009(平成21)年に区立公園として開園した。建物は木造2階建ての近代数寄屋造り(※1)で、2009(平成21)年11月に国の登録有形文化財に登用された。幻戯山房~すぎなみ詩歌館~(げんぎさんぼう すぎなみしいかかん)として一般開放されるとともに、句会・茶会などにも利用されている。
庭園には、梅(春)、野いばら(夏)、マユミ(夏・秋)、ビワ(夏・冬)など、俳句の季語になる四季折々の草花が植えられている。正門から入ってすぐのところにある、一見南国風の大きな木は、角川庭園のシンボルとも言うべき芭蕉の木だ。松尾芭蕉の名はこの木からとったとされる。詩歌館正面にはサルスベリの木があり、夏には鮮やかな紅色の花が、秋には紅葉が楽しめる。庭園中央に植わる大きなすすきの株が、秋の風になびく様子も趣深い。
詩歌館から庭を眺めてもよいし、庭に出て広い芝生を歩くのもよい。ゆったりとした時の流れを味わいたい。
※1 数寄屋造り(すきやづくり):茶室風の様式を取り入れた建築
角川庭園に着いたら、まずは石畳の小径(こみち)を歩いてみたい。そこには詩歌館から見る風景とは違う庭園の姿がある。距離にして30メートルほどの散歩道だが、さまざまな草木が育ち、林の中を歩くような趣きがある。途中、小さなお地蔵さんがあるのがほほえましい。
石畳の小径を抜けると開かれた空間が現れる。建物正面の中央の庭だ。芝生の上を散歩しながら、すっきりと手入れの行き届いた景色を堪能したい。
茶室前方には手水鉢(ちょうずばち)があり、竹筒から滴る水滴による水紋が美しい。その横にある水琴窟(すいきんくつ)は、地中の空洞に水音が響くように作られたもので、水を流すと深淵な音色が味わえる。また、そばには源義氏が長野県の霧ヶ峰で詠んだ句碑も置かれている。
俳句好きの方はもちろん、今まで俳句とは縁がなかった人も、角川庭園を訪れて一句たしなんでみてはどうだろうか。句の題材を探しに季節ごとに訪れてみたくなる庭園である。