教育ビジョンは、杉並区の目指す教育の指針となるものである。区の教育委員会では、平成17年に「未来を拓く人を育てる教育の推進」と「自分たちで自分のまちをつくる人々の力の育成」を杉並の目指す教育方針として策定し、同推進計画のもと、施策を進めてきた。
最初の3年間には、子どもたち一人ひとりを大切にする学習指導案や食育の推進、環境について学ぶエコスクール、学校のIT化の推進などが実行されていった。続く平成20年からの3年間は、教員の育成と授業力の向上、小中一貫教育、30人程度学級の実施などに力が入れられるようになる。また、学校と地域との連携がより強調され始めたのもこの頃からである。
平成24年には、区の基本構想が新たに策定されたことをうけ、教育ビジョン2012がスタート。少子高齢化や情報化の進展、それにともなう家族や地域のあり方の変容などに合わせ、「共に学び共に支え共に創る杉並の教育」という基本目標が定められた。平成26年度までの推進計画には、小中一貫教育の推進に加え、就学前教育の充実、学校司書の区立全小中学校への配置、学校と地域とを結ぶコーディネート機能の充実や生涯学習の推進などの取り組みが挙げられている。また、先の震災を受け、地域の防災拠点としての学校の環境整備も推進計画に加えられた。
杉並区は2012年7月に、「災害時子ども安全連絡網」をスタートした。これは、地震などの災害が起こった場合、メールで保護者に子どもの安全確認情報を配信するシステムである。区立小・中学校をはじめ、保育園、学童クラブなど、子どもが通う区のすべての施設に対し、同じシステムで一貫して行っているところは少ない。「東日本大震災のときに、保護者からの電話が学校に通じなかったことがメール導入のきっかけとなりました。この連絡網は学校や施設ごとに管理されており、すでに臨時休校のお知らせや学校連絡の補足などに利用されています。このように実際に活用することで操作に慣れ、いざ災害が起きた時に、スムーズな対応ができるのではと期待しております」(教育委員会 学校ICT推進担当 岡本さん)。
また、震災以降、杉並区教育委員会によって「学校安全対策の手引き」に新たに、「震災時対応、防災教育編」が追加された。このおかげで、学校での災害指導がより強化されることとなった。区立小・中学校で行われる避難訓練は毎月1回。日にちは予定表等で発表されているが、時間を告知しないことで、緊張感を持って取り組めるよう工夫されている。震度5弱以上の地震が起こった際には、保護者が引き取りに来るまで生徒は学校に待機するとの指針も。これを受けて、全区立校で親子の引き渡し訓練が行われるようになった。登下校時に地震が起こったときの対処法などを記した「防災マニュアルミニブック」も、全児童・生徒と家庭に配られている。さらに、小学校4年生以上の児童を対象とした防災館での起震車訓練、防火、煙体験等の授業が、区の援助で2012年からスタート。10歳を超えていれば、今まで中学生が行っていたAED体験もできる。
「災害時子ども連絡網」も防災訓練も、日ごろから積極的に参加していくことで、有事の際に子どもを危険から守る手助けとなるだろう。
区立小学校の学力調査は、国、東京都、杉並区によって実施されている。
区による学力調査は平成16年にスタート。その後、平成23年に「特定の課題に対する調査」という名称に変更された。これは、過去の学力調査から、杉並区の課題が国語の「読み取ったことを基に表現する能力」、算数の「数学的な考え方」にあるとし、これらに重点を置いた設問中心に調査をするようになったところからきている。また、国のテストが小6と中3を、都のテストが小5と中2を対象にしているため、小学校3、4年生と中学校1年生に対して実施することで重複を避けている。ただし、希望する学校は小5と小6、中2と中3でも調査を受けることが可能だ。
「特定の課題に対する調査」と同時に、「意識・実態調査」も行われる。こちらは、子どもたちへのアンケート形式で、平均学習時間(平日/休日、自立/塾、家庭教師等の質問項目)や読書量、学ぼうとする意欲などを調査するものだ。ちなみに平成23年度の結果によると、平日の平均学習時間は小学校3年生が約1時間、6年生が約1時間半。クラブ活動等で忙しくなる中学生は3年生で約1時間20分となっている。
杉並区教育委員会の飯塚氏は「この調査は学校の順列をつける目的で行うものではなく、あくまでも子どもたちの課題が何であり、その解決の方策の一助として行っているもの」と語る。調査結果は、教育委員会の指導主事や調査研究班が中心となって分析。報告会を開き、各学校の代表の先生に、より良い授業の進め方などの提案がされている。生徒たちにも結果プリントが配られるが、点数や順位ではなく正答率という形で評価されているのが特徴だ。この正答率は教科ごとだけでなく、区の課題である国語の「読み取ったことを基に表現する能力」、算数の「数学的な考え方」など、細かい項目別にも見ることができる。また、「数量関係を図に表して考えるなど工夫しましょう」など、結果に沿ったアドバイスも記載されている。
この調査が活かされ、課題を見据えた授業や学習が行なわれることで、杉並区の生徒たちの学力向上につながることが期待される。
※国語:「読み取ったことを基に表現する能力」を調査する、算数:「数学的な考え方」を調査する
PDF:5年生の国語と算数の問題例(290.0 KB )
杉並区の小中学校が合同で実施する連合行事がある(下の「連合行事リスト」を参照)。これらは校長会の行事部が計画をたてて、済美教育センター(※1)の協力のもとに開催。プロの演奏や演技を見る「音楽鑑賞教室」「演劇鑑賞教室」のほか、子供たち自身が主役となる行事もある。
その中の1つ、小学校の「連合音楽会」には5年生が参加。日頃から練習をつんだ合唱と演奏を、杉並公会堂の舞台で他校の児童と披露し合う。また、分区(近隣の学校を7グループに分けたもの)ごとに行われる「連合運動会」は、各校の6年生が団結して綱引きやリレー等で競い、100メートル走などの個人競技では成績優秀者が表彰される。
中学校の連合行事には、演劇部のコンクール「演劇発表会」、吹奏楽部の「オータム、ウインターコンサート」、文学作品について参加生徒が意見を交わす「書評座談会」などがある。
このほか、自由研究を集めた「杉並子どもサイエンス・グランプリ」や、図工や美術、技術、家庭科の作品展など、制作物の展示会も連合行事として行われる。2015(平成27)年度はセシオン杉並にて同時開催。さまざまな制作物が一堂に集まり、多くの親子連れや地域の人々が鑑賞に訪れた。
行事の中には、連合音楽会のように60回を超えるものもあり、「私も子供のときに参加したので懐かしい」と目を細める保護者もいる。済美教育センター指導主事の保土澤さんは「これからも子供たちの努力の成果をたくさんの方に見に来てもらいたい。」と語る。自分の作品が展示されたり、他校と競うため学校の仲間と協力する経験は、杉並の子供たちの良い思い出になるだろう。
連合行事リスト(名称/2015年度の開催月と場所/一般の見学)
<小学校> ●の行事は同時開催
・音楽鑑賞教室 6月 杉並公会堂 不可
・演劇鑑賞教室 9~10月 座・高円寺 不可
・連合運動会 10月 各学校 不可
・連合音楽会 11月 杉並公会堂 不可
●書き初め展 2月 セシオン杉並 可
●図画工作展 〃 〃 〃
●杉並子どもサイエンス・グランプリ 〃 〃 〃
・東京都公立学校美術展覧会 2月 東京都美術館 可
<中学校> ●の行事は同時開催
・音楽鑑賞教室 6月 杉並公会堂 不可
・オータムコンサート 9月 杉並公会堂 可
●美術科作品展 11月 セシオン杉並 可
●技術・家庭科作品展 〃 〃 〃
●演劇発表会 〃 〃 〃
●英語学芸発表会 〃 〃 〃
●音楽発表会 〃 〃 〃
●杉並子どもサイエンス・グランプリ 〃 〃 〃
●書評座談会 〃 勤労福祉会館 〃
・連合書き初め展 1月 杉並区役所本庁舎 可
・ウインターコンサート 1月 杉並公会堂 可
・東京都公立学校美術展覧会 2月 東京都美術館 可
<特別支援学級・特別支援学校>
・連合運動会 10月 済美山運動場 可
・連合展覧会 1月 セシオン杉並 可
※2016(平成28)年度の日程など詳しいデータはPDFを参照
※1 済美(せいび)教育センター:区立学校における教育の充実・振興を図ることを目的として、1951(昭和26)年に開設された教育研究所
PDF:小中学校・特別支援学校・学級の連合行事一覧(済美教育センター調べ)(82.3 KB )