株式会社ササユリ

会社概要

所在地:杉並区西荻北
創業:2017年1月
会社が手掛けてきた作品
『エンピツ戦記 誰も知らなかったスタジオジブリ』(書籍)、連続テレビ小説「なつぞら」タイトルバックほか劇中アニメ制作(テレビ)など

かつてスタジオジブリのアニメーターとして数多くのジブリ作品の動画チェックを手掛け、現在はアニメーター育成という新分野に挑戦する「株式会社ササユリ」の代表取締役社長・舘野仁美(たての ひとみ)さんに話を伺った。

なぜ杉並にスタジオを構えたのか

すでに西荻窪でササユリカフェを経営していたからです(2020年末より休業中)。

得意分野・ジャンル

当社は普通のアニメーション制作会社ではないという前提でお話しします。
連続テレビ小説「なつぞら」(※1)では、監督を兼ねた若手のアニメーターを支えるプロデューサー的な立場で一緒に取り組みました。何事も一人で行うには限りがあるので、そういうときの相談相手になれる経験や実績はあると思っています。そして「なつぞら」制作後には、改めて業界の人材の育成について考えるようになりました。一般的にブラックだと言われがちなこの業界を、少しずつでも良くしていく必要と責任を感じています。
アニメーターは、最初から自分の個性が出せる天才肌の人もおりますが、画工(絵を描くことを仕事とする人)としての修業を積み、段々とアニメーターとして熟練し、生活芝居からアクションシーンまで幅広く描けるようなレベルに成長していくのが自然だと思います。初心者に基礎から学んでもらう過程で、人材コーディネートなど、プロデューサーとしての役割を期待されるのであれば、それに応じることも可能です。
あえて言うのであれば、このような役割が当社の強みかと思います。

『「なつぞら」のアニメーション資料集』(株式会社スタイル)。<br>番組のキャラクターデザイン、絵コンテ、イメージボード、原画、背景など作品制作の過程を知ることができる資料集。ササユリカフェで購入可能(写真提供:ササユリ)

『「なつぞら」のアニメーション資料集』(株式会社スタイル)。
番組のキャラクターデザイン、絵コンテ、イメージボード、原画、背景など作品制作の過程を知ることができる資料集。ササユリカフェで購入可能(写真提供:ササユリ)

制作上のポリシー

アニメはキャラクター重視と思われがちですが、制作者はキャラクターの魅力ばかりでなく複雑な要素を作品に盛り込んでいます。例えば「なつぞら」のタイトル文字は、カリグラフィー(※2)の手法を用いて、壁紙など日常生活を豊かにするデザインを実践したウィリアム・モリス(※3)のような世界観を意識しながら制作しました。これは一例ですが、実は他にもたくさんの要素をしのばせてます。
こういう要素は、一朝一夕に蓄えられるものではありませんが、プロデューサーや監督という立場にいる人ほど、日々勉強を怠らず蓄え続けています。そして、それらが作品を制作する過程で表れます。知識を全てさらすのではなく、自分の内部で消化し、ときに知識やセンスを取捨選択し、わかりやすく簡略化して、より「素敵なもの」に仕上げるためにアレンジします。ですから、常にそういうことを念頭において制作に携わっています

今後チャレンジしたいこと

カフェ経営もあるので、作品の制作は現在予定していません。しかし「なつぞら」制作後に、やはりアニメ業界の人材を育てたいという思いが強くなりました。
制作会社の中には、アニメーター希望者に奨学金などの資金を提供してもよいと考えているところもあります。一方で、当社で育成し技量を保証した人材を、固定給で雇用すると申し出てくれる会社もあります。新しい挑戦になりますが、技術を教える人、教わる人、人材を雇用する会社との間でウィンウィン(win-win)の関係を構築し、結果が出せるようなモデルを作りたいと考えています。
この挑戦は2020(令和2)年4月から始まります。試行錯誤を重ねながら、まずは1つでも何か成果を出したいです。

『エンピツ戦記 誰も知らなかったスタジオジブリ』(中央公論新社)。27年間スタジオジブリで働いた舘野さんの著書。動画チェックという仕事内容や、宮崎駿監督、鈴木敏夫プロデューサー、高畑勲監督ほかスタッフの様子もわかる

『エンピツ戦記 誰も知らなかったスタジオジブリ』(中央公論新社)。27年間スタジオジブリで働いた舘野さんの著書。動画チェックという仕事内容や、宮崎駿監督、鈴木敏夫プロデューサー、高畑勲監督ほかスタッフの様子もわかる

区民・読者の皆さんへ

アニメ制作には多大な労力が払われているので、海賊版は利用しないで、きちんと対価を払って楽しんでもらいたいです。好きな作品のグッズや円盤(※4)などを購入し、応援してもらえると励みになります。
「ササユリカフェ」では、原画やアニメーターのイラストなどのアニメーション関連展示もしておりますので、ご興味ある方はお越しください。

※1 「なつぞら」:2019(令和元)年4月~9月にNHKで放映されたテレビドラマ。日本アニメの草創期にアニメーターとして活躍した女性が主人公
※2 カリグラフィー:西洋などにおける文字を美しく見せるための手法
※3 ウィリアム・モリス:19世紀イギリスの詩人、デザイナー、作家
※4 円盤:アニメ業界でCD・DVD・ブルーレイなど音楽、映像メディアを表す

DATA

  • 出典・参考文献:

    『エンピツ戦記 誰も知らなかったスタジオジブリ』舘野仁美(中央公論新社)
    『「なつぞら」のアニメーション資料集』(株式会社スタイル)

  • 取材:矢野ふじね
  • 撮影:写真提供:ササユリ
    取材日:2020年03月04日
  • 掲載日:2020年05月25日
  • 情報更新日:2023年02月21日