株式会社アトリエローク07は、アニメーション美術・背景・設定デザインの会社。代表取締役の森元茂さんに話を伺った。
前身は、先代社長の川本が杉並に立ち上げたアニメ背景スタジオ、有限会社アトリエロークです。1969(昭和44)年の設立にちなみ「アトリエ69」と名付けたかったけれど、当時は数字を使った商号を登記できなかったので「ローク」にしたそうです。社員だった僕が2007(平成19)年に引き継ぎ、株式会社アトリエローク07を設立しました。
僕が約40年前に入社した頃は、高円寺の住宅街にある一軒家がスタジオでした。その後も杉並区内を何カ所か転々とした後に、先代が阿佐谷北に本社と第2スタジオを構え、現在に至ります。
取引先のアニメ制作会社にも杉並の会社がいくつかありますし、杉並に長くいるので愛着があります。個人的には、東京高円寺阿波おどりの「いろは連」に所属して、お囃子(はやし)の大太鼓を叩いてます。
アニメの背景の制作だけでなく美術もやっています。背景は1人では描けないので6人ぐらいで分業しており、その見本となる設定(世界観)を作るのが美術です。得意分野は「ドラえもん」「ちびまる子ちゃん」などのファミリー系。それと、「テニスの王子様」「忍たま乱太郎」などの推し系です。
若い頃は、自分の描いた背景がテレビに映るだけでもうれしいものでした。美術になると、自分で絵の方向性を決められるので、また別の感動があります。ただし監督次第なので、描いたものが一発OKになるのはなかなか難しい。基本の建物の絵が決まっても、同じ建物の夕方の風景がリテイクになることも。それを乗り越えたらホッとしますね。
「ちびまる子ちゃん」の家は、漫画のコマを感じるように再現して、原作者のさくらももこさんから美術にお墨付きをもらいました。
「クレヨンしんちゃん」の初期の頃は、家の床や壁を水彩で塗った後、乾いていない状態の時に紙を1枚乗せてピッと剥がし、独特のざらざら感を出していました。今はデジタルで、その頃のテイストを再現しています。
2003(平成15)年に、当社の提案で区内のアニメ制作会社と共に、杉並ブランドのオリジナルアニメ「サヨナラ、みどりが池~飛べ!凧グライダー!!~」を制作しました。この時は、作画も監督も全部手配して、阿佐谷七夕まつりでDVDの手売りもしたんです。「孫に見せたいんだけど」と言って買いに来るおばあちゃんもいて、物を売ることは普段ないので、難しかったけれど良い思い出です。
杉並には当社の他にも、石垣プロダクションさんやスタジオ風雅さんなど、アニメの背景制作会社があります。互いに仕事を手伝ったり、一緒に飲みに行ったりしていますよ。
ファミリー系のアニメは、描き込み過ぎて背景が目立ってしまっては作品を壊してしまうので、あまり主張し過ぎないようにしています。「ドラえもん」ののび太の家の全景や、町の俯瞰(ふかん)など、BGオンリー(背景のみのカット)であれば力を入れますが、基本はキャラクターを飲み込まないように、作品のイメージに合った背景を心掛けています。
「ちびまる子ちゃん」のような長寿番組を大事にしたいし、新たにサンライズさん的なロボット系などテイストの違うものもやってみたいですね。バリバリにリアルだけど笑いの要素がある作品を制作できるといいなあ(笑)。
近所にある区立馬橋小学校のキャリア教育の授業や、修学旅行の見学などに、楽しく協力させてもらっています。アニメはキャラクターがメインなので、どうしても背景は地味になりがちですが、こういう仕事もあるのかと、子供の頃から親しんでもらえるとうれしいですね。背景画はスタジオジブリの男鹿和雄さんが有名ですけれど、ファミリー向けの作品にもちゃんと背景があるんだよと知っていただければ幸いです。