圧倒的な表現力で世代を問わず多くのファンに支持される作品を次々と生み出している株式会社コミックス・ウェーブ・フィルム。2007(平成19)年に設立、2020(令和2)年より荻窪にスタジオを構えている。代表取締役社長・徳永智広さんに、光の柔らかなオフィスで話を伺った。
コミックス・ウェーブ・フィルム(以下、CWF)は先代の代表の川口(典孝)が異業種からアニメーション業界に入って作ったスタジオで、小規模のインディーズから始め試行錯誤を重ねながら作品制作をしてきました。そして、作品の規模が大きくなるごとに社員も増え、広いオフィスを探していた中で出合ったのが現在の荻窪のオフィスです。緑が豊かで、地に足のついた環境で落ち着いて仕事に取り組める街だと思います。
杉並はアニメーションの仲間が多いところも魅力です。同じビルにオフィスを構えるサンライズなど同業他社の方とも頻繁に交流しています。繫忙期には助っ人として人手をお借りしたり、逆にこちらから応援を送ったりすることも。お互いに切磋琢磨(せっさたくま)しながら「いい作品を作ろう」と語り合える、アニメーション業界のベースのような場所だなと感じています。
新海誠監督作品を軸にしていることもあり、ストーリー性・メッセージ性の強い作品づくりを重視しています。細部のリアリティにもこだわっていて、「すずめの戸締まり」に登場するポテサラ焼きうどんは、スタッフで実際に作って試食したりもしました。こだわり抜いて作るため、どの作品も制作は本当にハードなのですが、公開され、皆さまから感想をいただけることで苦労が報われています。
また、インディーズアニメーションからスタートした会社ということもあり、アニメーションづくりの原則にとらわれない制作スタイルがユニークなポイントの一つと考えています。たとえば、一般的なアニメ現場では原画や美術背景などセクションごとに分業することが基本なのですが、CWFはそういったセクションの垣根を越えて作業を進めていく形をとることが多いです。従来の手法にのっとらない作り方なので、もちろんそれゆえの大変さを感じる場面もありますが、だからこそ実現できる、これまでになかった豊かな表現というものを大切にしたいと思っています。
CWFは新海誠監督という才能に出会い、異業種からの参入で初めてのアニメーションづくりに挑戦するところから始まった会社です。手探りでの挑戦には川口たちも苦労が多くあったと思いますが、だからこそ唯一無二の価値を持つ作品を生み出すことができたのだと思っています。僕自身、そのマインドを引き継いで、これからも価値ある才能を発掘したい、一緒に育っていきたいと考えています。
それぞれの作品で届けたいメッセージを大切に、長く愛される作品づくりに引き続き取り組みたいと思っています。CWFの作品はストーリー性の強いものが多く、ありがたいことに幅広い世代の方にご覧いただいています。これからも、時代を超えて伝わるストーリーやメッセージ性のある作品を生み出していけたらうれしいです。
また、そういった作品を一緒に生み出す仲間を増やしていきたいとも思っています。CWFの原点であるインディーズアニメーターの発掘や支援にも注力したく、それらの実現のために、新しいチャレンジとして「むすひ」という、若手クリエイターの交流の場となるような別会社を作り、新しい才能との接点を増やしています。
アニメーションだからこそできることを信じて、CWFらしいスタンスでまた新たな挑戦をしていきたいですね。
アニメーション制作の仲間に囲まれた杉並の地は、CWFにとってもはや「ホーム」です。杉並の皆さんとは、アニメ業界に限らず、同じ景色を見て同じ空気を吸っているという意味で、家族のような存在だと思っています。
そんな環境の中でアニメを作らせてもらえているのは「第二の青春」を過ごしているような感覚で、豊かな気持ちで日々の仕事に取り組めていることに本当に感謝しています。きっと数十年後に振り返った時、「青春を杉並で過ごせてよかったな」と思えるのではないか、と。そんな素敵なご縁に感謝して、またこの地から良い作品を生み出していきたいと思っています。