instagram

建築家・隈研吾さんに聞く、荻窪と荻外荘

荻外荘「展示棟」2階のイメージ(Tekigaiso Information Center Ogikubo ©Kengo Kuma & Associates)

荻外荘「展示棟」2階のイメージ(Tekigaiso Information Center Ogikubo ©Kengo Kuma & Associates)

杉並区立荻外荘公園に、荻外荘「展示棟」が新設予定

杉並区立荻外荘公園の敷地内に、2025(令和7)年夏、新たな施設として荻外荘「展示棟」が完成予定である。1階は開放的なカフェとショップ、2階は落ち着いた展示室となる。
荻外荘「展示棟」の基本設計・実施設計業務は、隈研吾建築都市設計事務所が担当した。隈研吾(くま けんご)さんは、国⽴競技場や根津美術館などの設計に携わったことで知られる、⽇本を代表する建築家だ。
2024(令和6)年12⽉15⽇、杉並公会堂で⾏われた荻外荘完成記念イベントで、⼯学院⼤学理事⻑・後藤治さんと有識者対談を⾏った隈さんに、登壇後の楽屋で話を伺った。

▼関連情報
すぎなみ学倶楽部 特集>公園に行こう>杉並区立荻外荘公園
すぎなみ学倶楽部 歴史>記録に残したい歴史>運命の宰相・近衞文麿と荻外荘

隈研吾さん

隈研吾さん

内閣総理大臣を3度務めた近衞文麿(このえ ふみまろ)が過ごし、政治の舞台にもなった荻外荘

内閣総理大臣を3度務めた近衞文麿(このえ ふみまろ)が過ごし、政治の舞台にもなった荻外荘

Q:荻窪と荻外荘の印象は?

荻窪は近衞家や与謝野家、角川家など著名な人々との縁があり、歴史的・文化的にたいへん意味のある土地です。
荻外荘は、建築家の伊東忠太(いとう ちゅうた)と、最初に住んだ大正天皇侍医頭・入澤達吉(いりさわ たつきち)という進取の気性に富んだ二人が建てたのですが、伊東忠太という人は、日本の建築史に興味がありながら、絶対に伝統におもねらない人でした。入澤達吉にもそういう先進的なところがあったようです。そして近衞文麿の精神性というか、そういったものを含めた三人の姿が、荻外荘にいると重なって見えるんですね。人間と住宅というのは重なるものだと思っているのですが、荻外荘では特にそう思います。そこで行われたことと家のデザインが重なっていて、非常に興味深いんです。すてきな古い家と、ただ楽しんで見るだけでもいいのですが、ぜひその奥にある三人の人生に想いをはせてみてほしいと思いますね。

▼関連情報
すぎなみ学倶楽部 特集>公園にへ行こう>杉並区立与謝野公園
すぎなみ学倶楽部 特集>公園に行こう>杉並区立角川庭園

公園の南側に広がる芝生広場から見上げた荻外荘

公園の南側に広がる芝生広場から見上げた荻外荘

復原された荻外荘の客間。戦前期に「荻窪会談」など重要な会談が行われた

復原された荻外荘の客間。戦前期に「荻窪会談」など重要な会談が行われた

Q:荻外荘「展示棟」の設計を担当した経緯は?

私の中学・高校の先輩の近衞忠煇(このえ ただてる)氏をはじめ、荻窪や荻外荘にご縁のある方が知り合いに多くいたこともあって、荻外荘には以前から興味がありました。荻外荘は荻窪文化の重要なポイントです。荻外荘公園が今後の荻窪文化のハブ(中心・中核)となるように盛り上げる一助になればと思い、今回の設計を担当させていただきました。

建設中の荻外荘「展示棟」(撮影:2024年12月15日)

建設中の荻外荘「展示棟」(撮影:2024年12月15日)

Q:荻外荘「展示棟」の特徴は?

屋根の形に特徴があります。なぜかというと、これは住宅のイメージで設計したものだからです。家の屋根は、その下に住む人の暮らしや文化とつながっている。荻外荘は平屋だけれど、屋根が高いですよね。杉並区立大田黒公園にある旧大田黒元雄邸(現大田黒公園記念館)もそうです。
屋根は家の個性、さらに思想を表すものだと考えています。同じような高層建築ばかりになると、日本の家の文化が失われるのではないかと思っているんです。
荻外荘「展示棟」は、敷地に合う形を考えたら自然に多角形の屋根になりました。アジア的な雰囲気を持った形です。この屋根の下で、アジア性とは、ひいては世界性といいますかグローバルな文化というものは何かと考えたり、感じてもらったりしてほしいと思っています。

▼関連情報
すぎなみ学倶楽部 特集>公園に行こう>杉並区立大田黒公園
すぎなみ学倶楽部 文化・雑学>杉並の景観を彩る建築物>大田黒公園記念館(旧大田黒元雄邸)

「これからの日本の住宅にとって重要なポイントが屋根」と語る隈さん

「これからの日本の住宅にとって重要なポイントが屋根」と語る隈さん

多角形の屋根が目を引く(Tekigaiso Information Center Ogikubo ©Kengo Kuma & Associates)

多角形の屋根が目を引く(Tekigaiso Information Center Ogikubo ©Kengo Kuma & Associates)

Q:荻外荘「展示棟」の楽しみ方を教えてください

1階にあるカフェは、大きなガラス窓から庭の木々の緑や荻外荘を見て楽しむことができる、明るい空間です。それに対して2階の展示室は大屋根の下にあり、照明もしっとりした雰囲気で落ち着いた空間になっています。一般的な美術館の展示室とは違い、ここは家の中のリビングルームといった役割を担っています。ゆっくり展示を見ることもできますし、一人で時代や未来を考えるスペースとしても利用できると思っています。

木々に囲まれた荻外荘(左)と、荻外荘「展示棟」(Tekigaiso Information Center Ogikubo ©Kengo Kuma & Associates)

木々に囲まれた荻外荘(左)と、荻外荘「展示棟」(Tekigaiso Information Center Ogikubo ©Kengo Kuma & Associates)

Q:杉並区民に一言お願いします

杉並は、一般的には普通の郊外という見え方かもしれませんが、日本の歴史的・文化的に非常に重要な場所です。もう一度この場所で育まれた文化に目を向けて、ネットワーク化といいますか、発信をしていけるといいと思います。ただの観光地ではなく、文化について深く学びたい人が、ゆっくりと考えたり、何かを見つけながら歩くことができるような場所になっていったらすてきだなと思っています。

なみすけと一緒に笑顔のツーショット

なみすけと一緒に笑顔のツーショット

取材を終えて

2025(令和7)年1月現在、50を超える国々でプロジェクトが進行し、グローバルに活躍中の隈研吾さん。今回の取材の質問は荻窪三庭園取材チームで検討し、私が代表で伺うことになり緊張したが、優しい笑顔で丁寧にお話しいただき楽しい時間を過ごすことができた。荻外荘「展示棟」の完成が心から待ち遠しい。

▼関連情報
すぎなみ学倶楽部 特集>荻窪三庭園

隈研吾 プロフィール

1954年生。1990年、隈研吾建築都市設計事務所設立。慶應義塾大学教授、東京大学教授を経て、現在、東京大学特別教授・名誉教授。50を超える国々でプロジェクトが進行中。自然と技術と人間の新しい関係を切り開く建築を提案。主な著書に『隈研吾 オノマトペ 建築 接地性』(エクスナレッジ)、『日本の建築』(岩波新書)、『全仕事』(大和書房)、『点・線・面』(岩波書店)、『負ける建築』(岩波書店)、『自然な建築』、『小さな建築』(岩波新書)、他多数。

2025(令和7)年夏の完成が待たれる(Tekigaiso Information Center Ogikubo ©Kengo Kuma & Associates)

2025(令和7)年夏の完成が待たれる(Tekigaiso Information Center Ogikubo ©Kengo Kuma & Associates)

DATA

  • 取材:仲町みどり
  • 撮影:TFF
    図版提供:株式会社隈研吾建築都市設計事務所
    取材日:2024年12月15日、2025年01月06日
  • 掲載日:2025年01月27日