(生重)つまり、魅力的な教育がないまちは魅力的なまちじゃないんですよ。2002(平成14)年に我々が学校教育コーディネーターをさせていただいて、地域の中で地域にある資源・人材すべてを学校教育に生かしていくというのが始まって、次に学校支援本部ができました。杉並区の全学校が、地域特性に合わせてその学校らしく教育を遂行していくための組織づくりをしてきたんですよね。2009(平成21)年に社会教育委員から「やりとりの復活」という提言(※6)が出されましたが、その意味は一人一人が出会って、つながって、みんなが何かにちょっとずつ責任をとっていくこと。
(井出)ええ。当事者としてつながる仕組みを今まで作ってきました。それが学校支援本部や学校運営協議会(※7)です。私は「いいまちはいい学校を育てる」と言ってきました。つまり、子供を育てるには、地域社会が豊かでなければなりません。それから、「学校づくりはまちづくり」とも言っていて、この学校づくりというのは学校を建てることじゃなく、子供を育てる、教育をするという「中身」なんです。それに関わることで出来上がった新しい人間関係とか新しい社会資本をまちづくりに投入していくという、行ったり来たりの関係。文部科学省がこれから実現しようとしていることはまさにそれで、杉並では先取りしていることです。
(生重)そうなんです。すごく先取りしていて、あらゆるところでそういう場が生まれている。例えば、ある小学校で高齢の方が毎朝「おはよう!」ってあいさつをしてくださいます。その方が毎日「おはよう」って通学路に立って言ってくれる、だから子供たちがあいさつをするようになる。それがまさしく実現されている社会ですね。
(井出)かつてあった地域を維持してきたさまざまな仕組みを、同じ形で再生回復させることはもう不可能なのかもしれません。だとしたら、新しいものに置き換えて、もう一度作り直していく必要があります。学校支援本部やコミュニティ・スクール(※8)がいい例ですが、新しい地域コミュニティの形を生み出す。コミュニティを復活させる一番の近道は、人と人との付き合いを回復させることなんです。
(生重)そうです、ほんとうにそう。キャリア教育コーディネーターの資格を取ってくれた若い人が、地方都市の商店街のビルの1フロアに若いママたちのコミュニティを作り、若者の新規ビジネスの発想の場所を作り、それが街を活性化させる集合体になっています。そこを中心にして、さびれた商店街におしゃれなカフェができていて。人と人とのつながり、関わり合いが生まれてくることで、ものすごくおもしろく変わっているんですよ。
(井出)大事なことですよね。教育とか学校とかはわかりやすいし、誰もが受けてきたものだから誰でもいろんなことを言える。限定されたエリアの中で話題を共有して、関わっていくだけの価値があれば、大人は集まってくるんですよ。そういう参加しやすくて参加する価値があるものの1つが子育てや教育。それが地域再生の一番の骨ですね。
※6 参考PDF『「やりとりの復活」が紡ぎ出す新しい公共空間』第10期社会教育委員の会議報告書
※7 学校運営協議会:地域運営学校(※8)に設置され、地域住民や保護者等が一定の権限を持って学校運営に参画し意思決定を行う機関
参考PDF「地域運営学校(コミュニティ・スクール)パンフレット」p.4
※8 地域運営学校(コミュニティ・スクール):地域と共にある学校づくりを目指して教育委員会が指定。2016(平成28)年 4月1日現在、全区立小・中学校の5割にあたる 32 校が指定されている
▼関連情報
地域運営学校(外部リンク)