街の磨き方・生かし方

経済学者で杉並在住20年の松原隆一郎さんは、独自の視点で街を探検する行動型人間。率先して入りにくい店を訪ねたり、一風変わった方法で街の魅力を探し、発信している。一方、中島智さんは、杉並歴は3年と短いものの、自身の教え子と共に地元商店街の活性化に協力している。お二人に阿佐谷の街歩きをしてもらいながら、街の魅力と活性、杉並にとって大事なことなどを語っていただいた。

街に人が来る条件

(松原)私は経済学者ですから、街に関して言えば、やはりイベントとその経済効果は気になりますね。来場者数が多くて規模が大きければ効果が高いのか、というとそうでもないようです。例えば、高円寺4大祭り(※1)の中でも、「東京高円寺阿波おどり」は最大規模ですが、私はまだ歴史の新しい「高円寺びっくり大道芸」に注目しています。このイベントは街に点在するスポットを生かして、大道芸人さんがあちこちのお店の前でパフォーマンスするので、お客さんが路地の隅々まで集まってきます。そのため商店街に経済効果が行き渡り、非常に喜ばれていると聞きます。

(中島)高円寺には個性的なイベントが多いですよね。秋には「高円寺フェス」、冬には10日間続く「高円寺演芸まつり」がありますし。「演芸まつり」は、座・高円寺が事務局でしたか(※2)。


松原隆一郎さん

(松原)「演芸まつり」も、お蕎麦屋さんや銭湯とか、とにかくいろいろなお店を会場にして落語や演芸を楽しめるということで、こちらも地元の評価が高いです。私は、座・高円寺の評価委員をしているのですが、あの施設が地域にできた影響は大きいですね。区外の演劇ファンだけでなく地元からも人が集まるように、子供向けにクオリティの高い演劇を上演したり、地域イベントの拠点になったりと、街の活性のためにさまざまな努力をしていると思います。


中島智さん

(中島)私は大学時代に民俗学を学び、環境教育などの市民活動に参加した経験から、地域文化への関心を深めました。その中で感じた「暮らしを誇れる地域社会をどう実現するのか」という問いが私の研究の原点です。現在は、観光を切り口に、都市におけるコミュニティづくりを幅広く研究しています。上京して間もなく、すぎなみ地域大学の「区民ライター講座」講師の依頼をいただき、自然な流れで杉並という地域に入っていくことができました。また、地域と密着した短大という教育機関に所属していることもあり、地域と学校との連携は重要な課題です。商店街の活性化をはじめ、コミュニティづくりを地域の人々や学生たちと共に考え、実践しています。その中で感じることですが、イベントを成功させるには情報発信のあり方を考える必要がありますね。イベントの存在をうまく伝えないと人が来ませんから。

(松原)そういえば先日、阿佐谷の「一人飲み屋さん祭り」(※3)に参加したんですが、あれ、1回目は街コン(※4)っぽかったんですよ。興味はあるが阿佐谷で一人で飲んだことがないという若い女性がワーッと来ていて、男性の方が少なかった(笑)。ブティックの奥で知らない者同士が膝をつき合わせてカラオケを歌ったり、面白かったです。高円寺の街でも感じますけど、個々の店が内側に閉じてしまうのではなく、外側に向かってアピールしていくと、街の個性ができてくるし、そういう外に開かれた街は元気で人も集まってくる。今、高円寺や阿佐谷で若い店主がやっている飲み屋さんって、すごくやる気があるんですよ。

(中島)そうやって街を形作っている人たちと、訪れた人の交流というのが、おそらく観光の本来の魅力だと思います。

※1  高円寺4大祭り:「高円寺びっくり大道芸」「東京高円寺阿波おどり」「高円寺フェス」「高円寺演芸まつり」
▼関連情報
高円寺観光案内(外部リンク)

※2  「高円寺演芸まつり」は、座・高円寺が主に事務局を務めている

※3  「一人飲み屋さん祭り」:「阿佐ヶ谷飲み屋さん祭り」開催10回を記念して、2016(平成28)年5月20日に開催された飲食店巡りのイベント。一人で店に入るというルールで、「はしご酒チケット」を購入して参加店舗を巡る方式
▼関連情報
阿佐ヶ谷飲み屋さん祭り(外部リンク)

※4  街コン:街を会場にした飲食店巡りのイベントの総称。地域活性化などを目的として実施され、参加者同士の出会いの場となることも多い。近年、全国各地で開催されている