料理家の野上優佳子さんは、お弁当作りの企画や提案のコンサルティングをしながら、テレビ出演や料理本の出版などで活躍している。「料理はもちろん大好きですが、とくにお弁当は、決まった枠にコンテンツ(おかず)をどう詰めておいしそうに見せるかを考えるのが楽しいですね」と話す。
かつては料理家と並行してライターもしていた。大学を卒業してすぐ、ジャンルにとらわれず執筆活動をスタート。出産後、子供が小さかった頃は、身近な暮らしに関する事柄を取材対象にすることが多かったそうだ。「すぎなみ学倶楽部」でも、古参メンバーの一人として、2006(平成18)年から約4年間、区民ライターの活動をしていた(※別注参照)。また、過去にはネットエディターとしてウェブサイトの企画構成やコンテンツ制作を手がけていたこともあり、いかにストレスなくユーザーを価値ある情報に導くかという視点で仕事にあたっていた。その時に身につけたコンテンツの取捨選択や、見せ方のコツなどが、「決まった枠(=お弁当箱)に詰める」という現在の取り組みにも生かされている。
※野上さんが担当した「すぎなみ学倶楽部」の記事の一部
自然>貴重木>樹木観察のコツ
食>その他>はちみつ専門店ラベイユ
野上さんは青森県出身。両親が共働きで忙しかったため、子供の頃から料理をする機会が多かったそうだ。小学校5年生の誕生日プレゼントに、自らリクエストしてオーブンをもらったというのだから、関心も高かったのだろう。「料理は母や祖母が作る姿を傍らで見て覚えました。母は忙しい時でもゴマを煎(い)って、すり鉢ですって使っていました。青森の郷土料理を作る祖母は、県外出身の母が使わない食材を利用したり、同じ食材でも2人はまったく別の料理を作っていることなど、料理に関するいろいろなことに興味がありました」と過去を振り返る。また、読書好きな少女だった野上さんは、本から得た料理の知識も少なくない。「家庭科の教科書や、オーブンのレシピブックなどもよく読んでいたんですよ」。今でも海外へ行く機会があると、現地のレシピ本を購入し、その国ならではの調理方法を学んでいる。
自身も母になり、子供たちが小さかった頃は一緒に料理作りを楽しんだという野上さん。今も自分や大切な家族のためにお弁当を作っている。「お弁当は、家族がそれぞれに会社や学校に持って出かけ、昼どきになれば、それぞれが違う場所で同じものを食べる。いわば“モバイルの食卓”かもしれません」。モバイル(移動性の情報端末)という例えを用いて、持ち運びできるお弁当を表現しているところがユニークに感じる。加えて、少し照れくさそうに「子供たちへの手作り弁当は、自分の目が届かないところで自分に代わって子供を守ってもらう“お守り”でもあるんですよ」と笑う。
ランチで外食すると、店が混雑していたり、量が多かったり、値段が割高だったりと、満足できないことがあるかもしれない。その点、自分好みに作れて、手軽に食べられるお弁当なら安心だ。だが、毎日飽きずに作るのはなかなか大変である。野上さんに質を下げず作り続けるコツを伺うと、「お弁当はいくつかのパーツが集まって完成形ですから、定番のおかずでも組み合わせを工夫するといいですよ。詰める時は、赤・黄・緑・白・黒(茶)の5色が入るとおいしそうに見えます」と教えてくれた。具体的なテクニックは、野上さんの料理本を参考にしてほしいが、どれも長い料理経験から導き出された方法だけに、説得力に富んでおり、マスターしたくなるに違いない。お弁当作りの世界が広がる可能性もある。
野上さんは忙しい時も、仕事の息抜きに家族と過ごす時間を何よりも大事にしている。2人の娘さんとはドキュメンタリー映画を、まだ小学生の長男とはライダー映画と、幅広いジャンルの映画を楽しんでいるそうだ。子供たちとは、善福寺川緑地に出かけたり、長男の自転車の練習で児童交通公園にもよく遊びに行く。「杉並は、一時期離れたことがあっても、学生時代から一番長く住んでいる場所なので落ち着きます。住宅地は静かで子育てがしやすいですね」。また、荻窪駅前のタウンセブンに、肉屋、魚屋、八百屋がそろっているので、食材を求めてちょくちょく足を運ぶとのこと。「そこの八百屋の野菜は撮影に使ってもよく映えるので、撮影のための買い物はここを利用しているんですよ」
▼関連情報
すぎなみ学倶楽部 特集>公園に行こう>都立善福寺川緑地
すぎなみ学倶楽部 特集>公園に行こう>区立杉並児童交通公園
料理家・お弁当コンサルタントがメインの野上さんだが、今も自身の料理本は、執筆はもちろんのこと、企画編集まで携わることも多い。「難しいことをそぎ落とし、ストレスなく生きたいとよく思います。結局、情報を整理しそれぞれに最適化するのが好きなのでしょう」。また、コンサルティング会社「株式会社ホオバル」の代表というもう一つの顔も持っているが、その業務内容も簡単にいうと「ゴール設定があって、そこにさまざまな既存の技術を組み合わせて新しい価値を作ること」だと説明する。決められた枠の中に工夫してアイデアを詰め込んでいく、野上さんの歩んできた道のりにぶれはない。「これからも食の分野に限らず、次の世代を担う子供たちが、幸せに生活を送れる世の中にする手伝いをしていきたいと考えています」と語ってくれた。
取材を終えて
料理というジャンルの中で、野上さんはなぜお弁当コンサルタントなのか、そこに至るまでの過程に興味を持っていた。取材を続けるうちに、これまでの生活の中にお弁当作りやライター経験があり、やがてそこからさまざまな活動へと派生したという話が印象深く残っている。
野上優佳子 プロフィール
青森県出身、2女1男の母。学生時代から長らく杉並区に住む。ネットエディターやライターを経て、2017(平成29)年現在では料理家・お弁当コンサルタントとして各種メディアへの出演なども多い。株式会社ホオバルの代表として、「食・健康・地域」をキーワードに次世代が幸せに暮らせる未来をつくる活動をしている。