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小松亮太さん

タンゴを若い世代にブレイクさせるバンドネオン奏者

テレビ番組「世界遺産 THE WORLD HERITAGE」のテーマ曲などを手掛ける小松亮太(こまつ りょうた)さん。中学生のときに未知なる楽器、バンドネオン(コラム3参照)と出会い、天性のセンスで難解な楽器をものにしたという。
バンドネオンの第一人者として、またタンゴ界の救世主として国内外で活躍する若き奏者に、地元杉並で話を伺った。

バンドネオン奏者・小松亮太さん

バンドネオン奏者・小松亮太さん

中学3年生でバンドネオンのプロ奏者に

父親はギタリスト、母親はピアニストという、タンゴ音楽家の家庭に生まれた小松さん。日常的に音楽を耳にして育ったが、ピアノもフルートも長続きしなかったそうだ。だが、14才の時、両親が家に預かり物のバンドネオンを持ってきたことが転機となる。「両親が演奏活動で忙しく鍵っ子だったので、“ドはどこだろう?レはどこだろう?”とバンドネオンをいじって遊んでいるうちに、大人たちに才能があると持ち上げられて、すっかりその気になってしまいました」。何かを習うとき、メソッドに則して教えられるのが苦手だったというから、初めから自己流でチャレンジできたことが功を奏したのだろう。「型がなく、自分らしくいられるバンドネオンは、自分を表現できる最高の楽器でした」
まだインターネットが普及していなかった1987(昭和62)年頃、プロの演奏は実際に見に行くしかなかった。「アルゼンチンのタンゴ・ミュージシャンが来日したときに、宿泊先のホテルに行ってアドバイスを受けたり、楽譜をコピーさせてもらったり。そうして独学でマスターしました」
バンドネオンの演奏家が少なかったため、中学3年の時に早くも演奏の依頼が舞い込んできた。「新宿シアターモリエールでの演奏が初めての仕事でした。高校1年生では「ヤマアラシとその他の変種」(※1)というアルバムの「Indio Del Tango」という曲のバックでバンドネオンを弾いたのですが、ヘタクソでもうカオスです。でも、早くから現場で経験を積めたことが、プロとしての成長につながりました」

中学2年生の頃。「指導者がいなかったので、すべて手探りで苦しかったけど、その分進歩した時の喜びが大きかった」(写真提供:小松亮太さん)

中学2年生の頃。「指導者がいなかったので、すべて手探りで苦しかったけど、その分進歩した時の喜びが大きかった」(写真提供:小松亮太さん)

日本に滞在中のポーチョ・パルメル氏にアドバイスを受けたり楽譜をいただいたりした(写真提供:小松亮太さん)

日本に滞在中のポーチョ・パルメル氏にアドバイスを受けたり楽譜をいただいたりした(写真提供:小松亮太さん)

バンドネオンとアルゼンチン・タンゴ

バンドネオンは、1840年代にアコーディオンとハーモニカを作っていたドイツの会社が新製品として発明したといわれている。「右に38、左に33のボタンがあり、それらはパソコンのキーボードがABC順に配置されていないのと同じように、音階が無秩序に配置されています。そして、蛇腹を引っ張って鳴らした時と縮めた時で、同じボタンなのに音程が変わります」。見かけはアコーディオンに似ているが、全然別の楽器だという。「アコーディオンの音色が総じてクラリネット的な響きで、とがっていると同時に丸くソフトな音色だとすると、バンドネオンの音色は中音域から高音域はオーボエ的で独特な渋さがあります。また、バンドネオンの形は縦・横比が、人間が美しいと感じる白銀比(1:√2)で作られています」
バンドネオンは1850年頃アルゼンチンに渡り、1890(明治23)年頃にタンゴ演奏に使われるようになったそうだ。「アルゼンチン・タンゴは民族音楽ではなく、ヨーロッパ移民がブエノスアイレスで作った音楽です。ダンスミュージックにその起源を持ち、冷たくかっこ良い曲やかわいい曲、哲学的な深さを持つ曲もあり、ただ単に“魅惑”や“情熱”を表現しているだけではありません。そして、楽曲というお題に対してアーティストがどんなアレンジをしてくれるのかを楽しめる音楽だと思います」

小松さん愛用のアルフレッド・アーノルド社バンドネオン

小松さん愛用のアルフレッド・アーノルド社バンドネオン

重いバンドネオンを巧みに駆使し、演奏する

重いバンドネオンを巧みに駆使し、演奏する

杉並の子供たちに音楽の楽しさを伝える

小松さんは、2001(平成13)年に杉並区に引っ越してきた。「子供がまだ小さかった頃、バイオリニストの妻の実家近くで世話になるためでした。杉並のまちはとても人情があり、人と人がつながっている感じがします。友人がマグロ一匹を送ってくれて、さばけずに困った時、西荻窪の小さな魚屋さんが解体してくれたことがありました。また、サンタクロースが本当にいると信じているような子供らしさを持つ子供たちがたくさんいる印象です」
地域区民センターのスタジオを練習に利用しており、とても気に入っていると話す。「自分の子供がお世話になった幼稚園・小学校・中学校でも、音楽鑑賞の一環として何度か演奏しました。ある時、演奏の翌日に幼稚園に子供を迎えに行くと、園児たちが自分を指さして前日に聴いたメロディを口ずさんでくれたのです。スタンダードといわれている曲ですが、3・4歳の子供にも通じるのだと感じました。中学校で演奏した時は、初めて見る楽器と音にみんなの目が輝いていたのが印象的でした。実際にバンドネオンを弾いてみる体験で、一回で操れた才能ある子もいたんですよ」
その他、杉並公会堂や杉並区内のイベントでも活動しているアマチュア団体「東京バンドネオン倶楽部」で、1994(平成6)年創立当初から定期的に指導を行っている。

▼関連情報
東京バンドネオン倶楽部(外部リンク)

妙正寺川の遊歩道で、散歩がてらウオーキングをすることもあるそうだ

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区立中瀬中学校での卒業記念音楽会の様子

区立中瀬中学校での卒業記念音楽会の様子

「これからも近隣の学校などで演奏を続けていきます」と語る小松さん

「これからも近隣の学校などで演奏を続けていきます」と語る小松さん

長く愛される音楽を創り続ける

作曲家として、テレビ番組「世界遺産 THE WORLD HERITAGE」のテーマ曲「風の詩~THE 世界遺産」をはじめ、映画音楽やアニメのオープニングテーマ曲なども手掛けてきた小松さん。その曲調はやさしく伸びやかで、リズムがあり、バンドネオンの息使いが感じられるようだ。「これからも、バンドネオンやタンゴだけに収まり切れない作曲家といってもらえるよう、後世に長く愛される自由な音楽を創ってくことが目標です。また、他の音楽家とのコラボレーションも続けていきたいと思っています」
コロナ禍で以前のような活動はできない中、2020(令和2)年9月に久々にステージに立つことができた。「待っていてくれた人たちがいて、良い音楽を届けたいという思いが強まりました」
2021年には『タンゴの真実』という著書を出版予定だ。「50年後のタンゴ・ミュージシャンのために執筆しています。きちんとしたタンゴの本がないので、具体的な事実・資料を集め、専門家にも確認しながら、タンゴの歴史について書こうと思っています」。また、アストル・ピアソラ(※2)の生誕100年コンサートも計画している。

取材を終えて
ステージでは、軽やかなトークで聴衆を引き付ける小松亮太さん。出版予定の『タンゴの真実』の発売も待ち遠しい。小松さんの探究心は、1940~50年代に作られたタンゴを掘り下げ、その奥深くに潜むドラマを解明しようとするところにあるのではではないかと感じた。

小松亮太 プロフィール
1973年、東京都足立区出身。
14歳でバンドネオンを独学で始め、16歳よりカーチョ・ジャンニーニに師事、音楽理論を岡部守弘の下で学ぶ。
1998年にCDデビューを果たして以来、カーネギー・ホールやブエノスアイレス(アルゼンチン)などで、タンゴ界における記念碑的な公演を実現。2016年12月に「小松亮太meetsワールド・バンドネオンプレイヤーズ」開催、2019年10月にイ・ムジチ合奏団と共演するなど、海外アーティストとの公演も重ねている。

※1 「ヤマアラシとその他の変種」(BRIDGE-111):1990(平成2)年発売。あがた森魚、桐島かれんらが参加
※2 アストル・ピアソラ:1921-1992。バンドネオン奏者、楽団指揮者。タンゴの楽曲「リベルタンゴ」の作曲者

東京オペラシティ コンサートホールでの公演(写真提供:小松亮太さん)

東京オペラシティ コンサートホールでの公演(写真提供:小松亮太さん)

2003(平成15)年にアルゼンチンでライブを行った際に、ブエノスアイレス市音楽文化管理局から表彰された

2003(平成15)年にアルゼンチンでライブを行った際に、ブエノスアイレス市音楽文化管理局から表彰された

書き込みがされた練習用の譜面

書き込みがされた練習用の譜面

2020(令和2)年に発売したアルバム「ピアソラの芸術」(写真提供:ソニー・ミュージックレーベルズ)

2020(令和2)年に発売したアルバム「ピアソラの芸術」(写真提供:ソニー・ミュージックレーベルズ)

DATA

  • 公式ホームページ(外部リンク):https://ryotakomatsu.net/
  • 出典・参考文献:

    『小松亮太とタンゴへ行こう』小松亮太(旬報社)

  • 取材:典
  • 撮影:TFF
    写真提供:小松亮太さん、ソニー・ミュージックレーベルズ
    取材日:2020年09月29日
  • 掲載日:2020年12月07日
  • 情報更新日:2020年12月15日