ニューヨークの街の温かい触れ合いを描いた『ニューヨークの魔法』シリーズなどで知られる、作家・エッセイストの岡田光世(おかだ みつよ)さん。
中学時代にカーペンターズの「Yesterday Once More」を聴いて英語が大好きになり、青山学院高等部在学中にアメリカのウィスコンシン州に留学。異文化の中で生活した体験が、人生最大の宝になったという。現在もニューヨークと生まれ育った杉並を行き来しながら、英語やコミュニケーションをテーマとした執筆を続けている。
杉並区の小学校で英語を教えていたこともある岡田さんに、英語を通して生まれたさまざまな出会いについて伺った。
杉並で生まれ育ち、大宮幼稚園、杉並区立松ノ木小学校・中学校に通いました。今はアメリカと行ったり来たりの生活ですが、日本にいる時は実家で暮らしています。
私は本当に杉並が大好きです。「杉並区」という名前は東京23区の中で一番すてきだと思うし、「松ノ木」という名前も自然が感じられますね。東京都立善福寺川緑地は緑が多く、ニューヨークのセントラルパークと同じくらい好きです。
子供の頃は、朝6時になると大宮八幡宮まで祖父の散歩のお供。近くの杉並区立大宮児童公園に大きな滑り台があって、いつも滑っていました。
堀之内妙法寺がうちの菩提寺(ぼだいじ)です。祖父母は敬虔(けいけん)な日蓮宗徒で、私も中学生くらいまでは授業がない時に毎月2回、祖父母とお経を上げに行っていました。6年生の時に父が心筋梗塞で突然亡くなって、父のお墓も妙法寺にあります。元旦は、家族でお墓参りに行ってからおせち料理を食べるのが常でした。
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中学生の時に英語に恋をして、いつかアメリカに行きたいと思っていました。この言葉を話している人たちの中に入って、世界中にお友達を作りたいなと。でも、うちはバリバリの日蓮宗でしたから、祖母に言い出せなかった。高校生の時に、「留学させてくれなかったら渋谷の高層ビルから飛び降りる」って書き置きをして、なんとか認めてもらえたんですよ。
高校の英語の成績は良かったのですが、留学先のウィスコンシン州に着いたら英語が全然わからず、来たことを後悔しました。あの頃はメールなんかなくて、心理的にも日本が遠く、すごく寂しかった。でも、ここに1年いるんだから話せるようにならなければと思い、自分から勇気を出して話し掛けるようにしました。
ホストファミリーはすごく良い人たちでした。この前の夏もホストシスターに会いに行き、2週間ほど一緒にいたんですよ。アメリカの高校のクラス会も5年ごとにあるのですが、私が一番出席しているんじゃないかな。
大学時代に2度目の留学をしました。その時に、Creative Writing(小説創作)の授業で初めて英語の短編小説を書いたら、教授がすごく感動してくれて、学校のコンクールで最優秀文学賞をもらいました。また、全米の留学生を対象としたエッセイコンテストでも1位になりました。
大学院時代には、日本経済新聞の記者に通訳を頼まれて全米を回ったんです。その人の知り合いの読売新聞記者から「現地ライターを探している。本社から編集主幹が来るので面接しないか」と誘われて、地下鉄の中で履歴書を書いて、1時間後に面接です。「うちの職場は記事さえ書けば、空いた時間は好きに使っていいよ」と言われたので、修士課程修了後に記者になったら、とんでもなかったんですよ!初日から深夜2時半まで働いて、その後みんなで焼肉。朝に帰宅して昼には出社。いろいろな人と出会えて良かったのですが、単発的な記事でなく、じっくりと調べて一つの作品を作りたいという思いがあって、1年半で退職しました。
2000(平成12)年ごろ、夫の仕事で日本に戻っていた時、めいが通う松ノ木小学校の校長先生に頼まれて、ボランティアで松ノ木小と杉並区立杉並第六小学校で英語を教えました。ゲームなどで動きとともに身に付けるのが一番だと思い、例えば、ペットボトルでボーリングをしながら「Ready, go!」とアクションしたり、英語でピンの数を数えたり。
また、私は英単語を覚えることよりも、人とつながる喜びを子供たちに伝えたいと思っていました。その頃、『ニューヨークの魔法』シリーズを出版していたんですけれど、どの話にも英語の表現が出てくるので、授業でいくつか読んだことがあります。子供たちって、大人が想像するよりも、すごく深い所までわかってくれるんですよ。「こういう時に、こういうふうに使うと心がつながるんだね」って。
2017(平成29)年から4年間、J-CASTニュースに「岡田光世「トランプのアメリカ」で暮らす人たち」を連載しました。
当時、マスコミはほとんど反トランプだったので、トランプ支持者は私がマスコミと知ると態度が変わるんです。最初は「すてきなお庭ね」という話から始まって、リラックスした頃にトランプの話になると、だいたい「I don't wanna talk.(話したくない)」と。私は中立な立場で取材をしたいので、相手に敬意を払うことは忘れませんし、彼らの気持ちもすごくわかります。彼らも「この人はわかってくれそうだな」って思ったら、心を開いてくれるんですよね。だから、まっさらな気持ちで相手と接するのはすごく大事だなって感じます。
私は海外を一人で旅行することも多いです。地元の人と話すのって楽しいし、助けてもらうととてもうれしいですよね。だから、日本に来てくれた外国人にも良かったと思ってもらえるように声を掛けています。
特に高円寺は外国人が多い印象ですね。先日、高円寺でソフトクリームを食べていた男性がいたので、「Is that good?」って聞いたら、「Yes, very good.」。カリフォルニアから旅行で前日に来たんですって。どこかおいしいお店を知らないかと聞かれたから、すぐそばの焼き鳥屋さんに英語のメニューがあるよと連れて行ってあげました。彼は「Thank you.」と言ってお店に入って行ったんですが、一緒に食べてあげればよかったかな。
カナダの研究ですが、スターバックスで注文する際に、注文だけした場合と店員と言葉を交わした場合で、それぞれの幸福感を測った時に、後者の方が幸せな気持ちで外に出たという結果があるんです。人と言葉を交わすことで、社会の一員という意識が生まれるという研究結果です。まさにそれは、私がいろんな人と声を掛け合う時に感じていたことなんですね。
自分から声を掛けると、たくさんのいい出会いがありますよ。「日本に来て数年たつけれど、日本人の友達がいない」という外国人も結構いて、声を掛けられると本当にうれしいみたいです。私はだいたい「Where are you from?」をきっかけにしています。
やはり英語は日々使っていないと出てこない。だから、外国人がいたら簡単な英語で話し掛けてみては?わからなかったらジェスチャーでもいい。そうしたら相手も喜ぶだろうし、自分もすごくHappyな気持ちになりますよ。
1960年、東京都杉並区生まれ。作家・エッセイスト。読売新聞アメリカ現地紙記者を経て、現職。アメリカの高校、大学、大学院に留学。1985年からニューヨークに住む。現在は、東京とニューヨークを行き来しながら執筆を続ける。著書に、『ニューヨークの魔法』シリーズ全9冊(文春文庫)、『ニューヨークが教えてくれた“私だけ”の英語ー“あなたの英語”だから、価値がある』(CCCメディアハウス)、『奥さまはニューヨーカー』シリーズ全5巻(幻冬舎文庫)、『アメリカの家族』『ニューヨーク日本人教育事情』(共に岩波新書)などがある。ジャーナリストとして「岡田光世「トランプのアメリカ」で暮らす人たち」(J-CASTニュース)の連載を4年間、執筆。