[赤いろうそくと人魚]をつくった小川未明

著:岡上鈴江 (ゆまに書房)

子供たちに、名作童話作家たちのひととなりを伝えるシリーズ。『赤いろうそくと人魚』の作者、小川未明さんの編は、小川さんの次女、岡上鈴江(おかのうえすずえ)さんが紹介文を寄せている。小川未明さんは、文学を志し新潟から上京、社会派小説家としてスタート。日本の児童文学の黎明期、『赤い鳥』の児童文化運動を担い、戦前、戦中、戦後にわたって、『牛女』『月とあざらし』『野ばら』 等々、千余りに及ぶ珠玉の作品を発表、「日本のアンデルセン」と称された。杉並には昭和5年に転居。以降、生涯を高円寺で暮らし、近隣の人々からは「高円寺の先生」と親しまれた。岡上鈴江さんも父親と同じく児童文学の道に進み、翻訳では『嵐が丘』『フランダースの犬』『クリスマスキャロル』等々、創作では『スウおばさん大好き』等々、数々の作品を発表した。娘からみた小川未明像とともに、父から娘へと杉並の地で受け継がれた児童文学への想いも感じとることができる一冊だ。
おすすめポイント
和田堀の川に釣りに行ったきり戻らない子供たちを捜しに出かけた未明さん。「父は、弟たちが近づくのを待って、『おそいじゃないか』とどなるが、そのあとはすぐからっとして、『どうだ、たくさん釣れたかね』といって空き缶の中をのぞく」(「高円寺に移って」より)。そして釣りを終えると、夕方には魚を川に放してしてやるのが小川さん親子の約束事。戦前の和田堀風致地区を舞台にした、童話のような思い出話も微笑ましい。また、高円寺への空襲のさなか、一家で脱出した話など、戦時下の杉並の貴重な体験談も。当時の杉並の人々、子供たちの姿も思い描くことができる。

DATA

  • 取材:井上直
  • 掲載日:2013年12月09日