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郊外の文学誌

著:川本三郎 岩波現代文庫

映画、都市、文学、現代文化について感性豊かな作品を発表しつづけるエッセイストの川本三郎さん。本書は、永井荷風、林芙美子…、大正、昭和と、旧東京市中から生まれた作家たちを長年追い続けた川本さんが、新たに誕生した東京近郊の文化圏に注目、これまであまり語られることのなかった、緑豊かな新天地で生まれた作品と作家たちの姿、その背景を〈郊外の文学〉として、文学を中心にまとめた力作だ。「大都会の生活の名残と田舎の生活の余波とがここで落ち合って、緩やかにうずを巻いている…」、渋谷、新宿、世田谷、中野と郊外を巡る川本さんの文学の旅は、自身が育った地元・杉並に入り、高円寺、阿佐谷、荻窪と、その歩みは、ますます速くなっていく。
おすすめポイント
川本三郎さんにとって、杉並、ことに阿佐谷界隈は、幼少の頃より慣れ親しんだ地、また波乱の青春時代、ジャーナリスト時代をすごした悔恨の地でもあり、郊外の文学を訪ねる旅は、長い年月を経て、川本さんが過去を振り返り、自分探しをする旅でもあった。町歩きの名人でもある川本さんの案内で杉並を歩けば、徳川夢声、北原白秋、井伏鱒二、石井桃子、鈴木信太郎…、数々の人々と出会え、また、それぞれの自分探しもできるかもしれない。川本さんと同時代感覚を共有する世代はもちろん、広く、杉並の文化に関心のある方におすすめの一冊だ。


DATA

  • 取材:井上直
  • 掲載日:2013年06月24日