2010年、享年72歳で亡くなった絵本作家・佐野洋子さん。エッセイストとしても多くの書籍を残している。晩年は荻窪で暮らし、本書では2003年秋から2008年冬までの日々の生活が綴られている。
「これは呆けつつある老人のリポートとしてご参考になさって下さい。」
朝、目が覚めるとベッドの中から足でカーテンを開け、うとうとしながら本を読む。近所のコーヒー屋で一人暮らしとおぼしき「同士バアさん」を観察しながら朝めしを食べ、銀行のATMでもたもたしながらも金を下ろせる今日を感謝する。夜、『プロジェクトX』を見ながら泣き、朝の続きの本を読みながら寝る。そんな毎日。
幼少時代のこと、両親兄弟との思い出、友人たちとのおせち作り。老いを感じ、認知症に怯え、家から67歩のところにある病院で乳ガンの手術を受け、療養中のベッドで『冬ソナ』にはまり、韓流に身を持ち崩す…。
明け透けな、ぶっきらぼうな語り口が痛快で、バアさんを謳歌しながらジタバタと生きる姿は清々しくさえある。本書を読んでから、代表作『100万回生きたねこ』を改めて読むと、主人公のねこが著者本人のようにも見えてくる。
おすすめポイント
荻窪教会通り商店街や駅前の温泉などが登場し、著者が荻窪の街で生活していた様子がよくわかる。中でも商店街の八百屋の店主とのやり取りが面白い。「セロリちょうだい」「あ、セロリない」「えーこの前もなかったじゃん」「だって、俺嫌いだもん、くせえんだもん」。この今も残る老舗の八百屋に、佐野さんの印象を聞きに行ってみると、「いつも着物を着て下駄はいて、変な格好して歩いてたよ」とご主人。相変わらずセロリは売っていないそうだ。