「エベレスト盛り」など見た目やネーミングのインパクトで話題をさらうメニューがある。阿佐ヶ谷にもかつて、そんな斬新さとおいしさで注目を集めたユニークな商品があった。マンガやアニメに登場する原始人がかぶりつく、通称「マンガ肉」と呼ばれる大きな骨付き肉をイメージした商品である。今回は阿佐ヶ谷のプロ達に、新しい「マンガ肉」作りに挑戦してもらった。
阿佐谷パールセンター商店街にあった「吉澤精肉店・吉澤ミート」。1929年創業の老舗精肉店で、1998年頃(主人記憶による)から売り出した「あの肉」と「その肉」が大きな注目を集めた。
まるで原始人が食べていたような肉の塊をイメージした商品は、最近でも「ギャートルズの肉(2013年・ファミリーマートグループ)」「ギャートルズのお肉 (2014年・米久株式会社)」などが販売されて話題となった。その先駆けとも言える「あの肉」「その肉」は、販売開始以来どちらも予約待ちが出るほど大人気だったという。この商品は、ご主人が少年時代「ロビンフットの冒険」などの映画を観たときに、巨人や原始人がおいしそうに肉をむさぼるシーンで「あの肉うまそうだなあー」と憧れたのを形にしたもの。他にも吉澤精肉店には、ト音記号形ウィンナー、マンモスの輪切りなど、ネーミングにご主人のセンスが光る商品がたくさんあった。
※吉澤精肉店は2009年頃に閉店。このコラムは、営業中の店を取材した2009年の記事をもとに編集。
この復活プロジェクトでは、「あの肉」「その肉」をヒントに、新しい阿佐ヶ谷名物となる「マンガ肉」の製作に挑戦する。
開発にあたって課題が2つあった。まずは使用する骨パーツをどう入手するか。「あの肉」は本物の骨を使っていたが、それでは精肉店など特定の店でしか作れない。つぎに商品のサイズ。大きな肉の塊を再現すると価格が一本3000円程度になり、気軽に購入するのが難しくなる。そこで、骨は自作し、肉のサイズも小さく食べやすくすることに決定した。その結果生まれたのが、陶器製の骨にミンチ肉を巻くというアイデアである。
この提案を持ち込むと、阿佐ヶ谷の陶芸教室「益子陶芸サロン」の高木さんが耐直火粘土での骨作りを、阿佐谷の川端振興会(商店街)の居酒屋「かきんちゅ」の小滝さんがミンチ部分の料理を、それぞれ快く引き受けてくれた。
●骨の大きさと形状
丸い団子のようなミンチ肉を骨に巻くとなると、中央部だけ火の通りが悪く、外側と中側の食感に大きな差がでてしまうかもしれない。そこで骨の中央部に膨らみをもたせ、ミンチが均等に巻けるように工夫した。また、扱いやすさや価格への影響を考えながら骨の大きさも熟考。約15センチの長さ、直径15ミリ程度のサイズに決まった。
●味や食感にこだわる肉部分
ミンチとバラ肉を使って、見た目だけでなく味も満足できる肉作りを目指す。かぶりついた時の歯ごたえを意識して、肉の内部は2種類のミンチをミックス。その外側をバラ肉でくるみ、40分ほど燻製にした。バランスを保ちながら何回か挑戦し、ようやく黄金比が完成。まだ若く「あの肉」「その肉」を実際に食べた経験のない小滝さんにとって、新しい「マンガ肉」を生み出す作業は手探りに近いものであった。
こうして誕生したのが、新名物「あさがや原人の肉」。街のプロがそれぞれに工夫し、試行錯誤の末にたどり着いた商品である。食べる直前にこんがりと焼くことで、照りと香りに深みを出すのが特徴。かぶりつくと、パリパリに焼けたバラ肉の皮と、スパイシーでしっとりとしたソーセージ生地のうまさを一度に楽しめる。サイズも手頃で、子供でも片手で持ってパクパク食べられる大きさだ。
新名物「あさがや原人の肉」は、毎週金・土・日曜日に、阿佐谷の川端振興会(商店街)の居酒屋「かきんちゅ」で提供中。価格は1180円(税込)。テイクアウト可。数に限りがあるのでご注意を。
※「あさがや原人の肉」は販売を終了しました