「市杵島神社(いちきしまじんじゃ)は善福寺公園の中にある。」そう聞いても、初めて行く場合は、なかなか見つけられないのではないだろうか。なぜなら、善福寺池の「上の池」の北西にある直径20メートルほどの島に、小さな社のみがひっそりと建っているからだ。
御祭神は、日本書記に天照大神(あまてらすおおみかみ)の娘として登場する水の神「市杵島姫命(いちきしまひめのみこと)」である。市杵島姫命はその後、仏教の「弁財天」と同じ信仰体系とされたため、同名の通称で呼ばれるようになった。ちなみに東京都公園協会の地図に市杵島神社は「弁財天」と記されている。
『善福弁才天略縁記』によると「1197年、江ノ島弁財天を移して祀(まつ)り、創建した」そうだ。神社の始まりについては次のような言い伝えがある。1189年、源頼朝が奥州征伐に向かう際にこの地で休み、飲み水を得ようと井戸を掘ったが、7か所ほど掘っても干ばつのため水は出なかった。「水の出が遅い」と、弁財天に祈ったところ、やっと水が出て泉ができた。そこでこの地を「遅野井(おそのい)」と命名した。以来、雨乞いの神をあがめて、遠くからも人々がやって来るようになったといわれている。干ばつの雨乞い行事は、1949(昭和24)年まで続いていた。
やがて「遅の井の泉」は枯れたが、今でもこの辺りの地下水は杉並浄水場を経て、一部の杉並区民の飲み水となっている。ありがたい水の神の恩恵は続いているといえそうだ。善福寺公園を散歩する人やランニングする人が、立ち止まって池に向かって一礼していく姿も見られる。
年に一度、例大祭の時に、池の中にある社殿に向けて臨時の橋が架かる。
御祭神
市杵島姫命
主な行事 ※日付は毎年固定
4月8日 例大祭