山中牧場は小樽より車で約30分。市街地から山道を登り、ワイナリーやゴルフ場を左右に見ながら森の中を進むと、突然現われる。知る人ぞ知ると言ったところだ。牧場にある直営売店「山中ミルクプラント」の取締役工場長、山中宣太郎さん(以降、山中さん)に話を伺った。
「山中牧場でソフトクリームを販売し始めたのは父の代です。今から約27年ぐらい前の1989(平成元)年でしょうか。牧場ですので、牛を育てて乳を搾って牛乳を販売していました。舗装されていない山道をわざわざ牧場まで牛乳を買いに来てくれるお客様に、何かもう1つ提供したいと始めたのがソフトクリームです。」
販売開始から数年後、生の牛乳で作った牧場ソフトクリームが北海道で大ブームになる。山中牧場も直営の札幌店の他に、ソフトクリームの販売店をいくつか出した。「東京にも出店してみてはという話になり、1997(平成9)もしくは1998(平成10)年に叔母が東京に店を設けました。その店が阿佐谷にあった店です。場所は、阿佐谷パールセンターの一番南端、南阿佐ヶ谷駅に近い方でした。」
阿佐谷店のソフトクリームの原料は、すべて北海道の山中牧場と同じものを使い、同じ配合で提供されていた。「東京と北海道では気候も違いますし、イートインスペースがなく外で食べる形の店で冬場は厳しく、3年ほどで閉店を決断しました。当時のソフトクリームを食べたいと言ってくださる方が今もいるのはうれしいですね。」
早速ソフトクリームをごちそうになった。牛乳そのものの味が口の中に広がり、甘さが控え目であっさりとしている。「2つ目もいける!?」という感じだ。
「やはり一番おいしいのは出来立てです。ソフトクリームはコクと後味が重要だと考えています。また食べたい、もう1つ食べたいね、と思われるような後味を目指しています。コクと後味は反比例で、コクを求めると後味に影響が出るためバランスが難しいところです。また、当社のソフトクリームは急いで食べないと溶けだすとよく言われますが、それも味を重視している結果です。」
原料は非常にシンプルで、牛乳、生クリーム、加糖練乳、バニラエッセンスのみと言う。「牛乳は低温殺菌乳です。低温殺菌で生き残った菌が牛乳を育ててくれるんですよ。また、牛乳の味は牛の状態や飼料によって変わるので、ソフトクリームに一番合うように独自に牛を育てています。」
かつての味と現在のソフトクリームが同じかと聞くと、それは違うという返事であった。客の声を反映し、試行錯誤を重ねているとのこと。「牧場ソフトクリームを販売している店の中にはアイスクリームなどに商品展開しているところもありますが、当社は今後もソフトクリームのみにこだわっていくつもりです。このソフトクリームを食べることを目的に牧場にも来てもらいたいです。」