公園の北西側、うっそうとした雑木林の中の階段を降りると広大な善福寺池が広がる。水面に映える空と緑の美しさに、思わず立ち尽くしてしまうかもしれない。
善福寺池の周辺地域は、1930(昭和5)年に区内の自然環境を守る区域として「善福寺風致地区(※1)」の指定を受けた後、1961(昭和36)年に都立公園として開園した。公園の名前は、かつて池のほとりにあった善福寺という寺にちなんでいるという。公園の面積の約半分を善福寺池が占め、池を囲むように遊歩道が続き、公園全体が細長い形をしている。
善福寺池は、渡戸橋を挟む上の池と下の池の2つの池からなる。上の池は、井の頭池(井の頭恩賜公園)や三宝寺池(石神井公園)と並ぶ、昔の武蔵野三大湧水池。江戸の暮らしを支えた日本初の上水道である神田上水の補助水源として利用されたほど、豊富な水量があった。その後、周辺地域の宅地化などに伴い、池は二度の渇水の危機にあいながらも、公園の中にある深さ120メートルもの井戸から水をくみ上げることで現在も穏やかな水面が広がっている。
池の西側には「遅野井(おそのい)」と呼ばれる湧水があった。今から約800年前に源頼朝が奥州征伐に向かう際、飲み水を求めて立ち寄ったという言い伝えが残る。折しも干ばつでなかなか水が出ず、現在も小島にまつられる弁財天に祈り、自ら弓の本筈(※2)で土を掘ること七度でようやく水が出たとされる。その際、「今や遅し」と待ったことにちなんで名付けられたそうだ。現在、遅野井は滝として復元され、滝の水は前述の公園の中にある井戸からくみ上げられている。
※1 風致地区:都市の豊かな自然環境を維持するために、自治体が保護を行う地域
※2 本筈(もとはず):弓の下端の、弦をかけるとがった部分
2つの池は、それぞれに異なる風情を持つ。
上の池には貸しボートが浮かぶ。冬季を除く週末と祝祭日に利用可能で、手漕ぎボート・足漕ぎボート・アニマルボートが選べる。広い遊歩道は、ジョギングをする人や犬の散歩をする人などが行き交いにぎやかだ。
下の池はアシなどの水生植物が池を覆い、静かな空気に包まれている。時折、茂みの中からガサガサと野鳥の気配がうかがえ、シャッターチャンスを狙う人の姿も見られる。遊歩道には生きた化石と呼ばれるメタセコイアの大木が並ぶ一角があり、自然の力強さが感じられる。
池の周辺は、区内で最も鳥類が豊富に見られる地域の1つだ。一年を通じゴイサギやバン、カイツブリなどが訪れる。秋から冬にかけては、マガモやコガモ、オナガガモといった鳥が池に渡来し、仲良く泳いでいる様子がほほえましい。日本野鳥の会の創設者、中西悟堂氏とのゆかりも深い。
池の周りにはベンチが置かれ、疲れたら池を眺めながら一休み。春は桜、初夏はスイレン、秋から冬には紅葉したモミジやイチョウが園内を彩り、水面に映る景色も美しい。四季折々の自然を堪能できるだけでなく、ブランコや滑り台、砂場などの子供向けの遊具もあり、家族連れも楽しめる。また、公園サービスセンターで工作教室や写真展などが随時開催されているので、公式ホームページをチェックして気になるイベントがあれば参加してみよう。