善福寺川下流、川沿いに続く東京都立和田堀公園には、武蔵野の面影を残すのどかな風景が広がり、のんびりとした時間が流れている。
春は梅や桜、秋は紅葉が美しく、四季折々に変わる景色を眺めながら犬の散歩やジョギングをする人、ベンチで弁当を広げたり読書をする人、楽器を演奏する人、広場を駆け回る子供たち、皆それぞれの過ごし方で楽しんでいる。
かつてこの辺りは地盤が低く、善福寺川の氾濫などで自然に池ができるような地形だった。昭和30年代中頃に行われた河川改修に伴い人工池(和田堀池)を造り、周辺を整備し、1964(昭和39)年に公園とされた。
川べりの遊歩道は全長約2km、「白山前橋」から下流の「武蔵野橋」まで12の橋が架かっており、散歩をしながら橋をたどるのも面白い。「大成橋」「宮木橋」「大松橋」は、大宮と成田東、松ノ木と橋の両側にある町名から名付けられたもの。大宮八幡宮下にある「宮下橋」は、松本清張の小説『黒い福音』にも登場。1959(昭和34)年の武蔵野が舞台になっている作品で、公園ができた当時の様子を知ることができる。
また、善福寺川流域は古代遺跡が多いことでも知られ、公園周辺にも弥生時代の大宮遺跡、縄文・弥生時代の松ノ木遺跡がある。隣接する杉並区立郷土博物館には、発掘された石器や土器などを展示。年に1度、公園と博物館で共催される「歴史ガイドツアー」で園周辺の史跡を巡ってみるのもいいだろう。
木々に囲まれ、大小2つの中島と噴水がある和田堀池には、都心では珍しい水鳥のカワセミが生息している。池にエサとなるクチボソやタナゴなどの小魚がいること、周辺に巣作りに欠かせない赤土があること、中島の茂みが身を隠すのに最適であることなど、カワセミがすみやすい環境が整っているようだ。
そのほか、済美山地区や観察の森にはクヌギ、コナラを中心とした雑木林があり、四季を通じてさまざまな野鳥が飛来。バードウォッチングを楽しむ人や大きなレンズでシャッターチャンスを狙う写真愛好家も多い。
また園内には、300mトラックのある第一競技場、400mトラックがある第二競技場(済美山運動場)があり、一般利用はもちろん貸切利用もできる。区内唯一の都立バーベキュー広場(要予約)は、お花見や行楽シーズンはなかなか予約できないほど人気のスポット。和田堀池近くにある民間の釣り堀・武蔵野園は食事もでき、週末になると家族連れでにぎやかだ。
一方で、災害時には大規模救出活動拠点となる「防災公園」の役割も担っている。第二競技場が自衛隊のヘリコプター発着場所やベースキャンプとなるほか、園内には多くの防災設備がある。近隣福祉施設や町会との避難・防災訓練、かまどベンチの役割や使い方を学ぶ「親子防災ベンチ火起こし体験」なども開催している。
2020(令和2)年冬、和田堀池でかいぼりが行われた。かいぼりとは、農作業が終わる冬に、ため池から水を抜き、一定期間干して、清掃、堤や水路の点検補修を行う作業である。近年、公園などの池で水質改善や外来種駆除を目的に行われる例が増えている。東京都建設局の担当者は「かいぼりは水質・底質の改善、生態系の回復などに効果があります。都立公園にある30の池でも順番に行っており、和田堀池での開催は3年ぶり2度目です」と話す。
11月28日には、地域ボランティア約30名が生物の捕獲などの作業にあたった。胴長を身に付けたボランティアが、水の抜かれた和田堀池に入り、池底の泥水を網ですくうと、さまざまな生物が姿を現した。モツゴ(クチボソ)、トウヨシノボリ類、スジエビなどの在来種に交じり、コイ、アメリカザリガニ、ブルーギルなどの外来種も見られた。捕獲した生物は、専門家が種類ごとに分けて生体数を調査。このうち在来種はスタッフが飼育し、約45日間の池底の天日干しの後、再び水を張った池に戻すという。
この日は、一般見学者向けにかいぼりの解説と捕獲生物を展示するコーナーも設けられ、親子連れでにぎわっていた。
かいぼりの効果で環境の良くなった和田堀池に、在来種がたくさん増えることを期待したい。