1982(昭和57)年10月、区制施行50周年記念施設として、荻窪3丁目の静かな住宅街に開館した。設計を手掛けたのは、日本を代表する国際的建築家の黒川紀章さん(1934-2007)だ。黒川さんは、1960年代初頭から斬新な建築作品を発表し続け、都市デザインや地域開発など幅広い分野で活躍。特に、建築デザインに「自然と建築の共生」「内部と外部の共生」など、多様な「共生」の考え方を取り入れた建築家として知られている。
図書館の設計にあたって「みどりとの調和及び共生を計る」というコンセプトが採用され、玄関脇にシンボルツリーのヒマラヤスギが据えられた。また、周囲の住環境との調和を考慮し、全体がシルバーで統一された都会的な外観の建物を、木々の緑が柔らかく包み込むような配慮がなされている。
館内の閲覧コーナーは、2階まで続く高い吹き抜けとなっており、開放的な空間が広がっている。壁は全面ガラス張りで、ブラインドを上げると四季折々の読書の森の風景が見渡せ、屋内にいながら、まるで木立の中で本を選んでいるような気分が味わえる。
2階の「調べものコーナー」内には、杉並区ゆかりの文化人から寄贈された作品が展示されている。彫刻家・佐藤忠良さん(※1)の青銅像「フードの竜」や阿佐谷在住の詩人・谷川俊太郎さん(※2)が自作の詩をしたためた書を鑑賞できる。
また2014(平成26)年には、敷地内に、平和を願う杉並区の象徴として「アンネのバラ」が植樹され、訪れる人の目を楽しませている。
2020(令和 2)年9月、老朽化設備の更新を伴った改修工事を終えリニューアルオープンした。設計を行うにあたり、区民ワークショップ(※3)やアンケートの意見を参考に中央図書館改修基本計画を策定。建築当初の「みどりとの調和及び共生を計る」というコンセプトを引き継ぎつつ、「時代のニーズを反映した図書館の成長・進化に対応できる、柔軟性のある建築をめざす」という基本コンセプトが掲げられている。
リニューアル後の図書館には、隣接する読書の森公園に向かう傾斜地に屋外スペース「本の広場」が新たに整備された。本を交互に積み上げるように重ねられたウッドデッキが緩やかな勾配を作り、木陰の周りで来館者がくつろげる小分けした広場が設けられている。館内も、「こどもの本」コーナーを2階へ、新聞・雑誌コーナーを地下階へ移すなど、レイアウトを一新。「本の広場」に面する広大なガラスウォールの側にカウンター席が新設され、緑を眺めながら読書を楽しめるようになった。
▼関連情報
すぎなみ学倶楽部 特集>公園に行こう>区立読書の森公園
杉並区ホームページ>杉並区立中央図書館改修基本計画(外部リンク)
※1 佐藤忠良(さとうちゅうりょう)さん:1912-2011。彫刻家。1959(昭和34)年に永福町に構えたアトリエを拠点として、国内外で優れた作品を発表した
※2 谷川俊太郎さん:詩人。1931(昭和6)年、東京府豊多摩郡杉並町(現・杉並区)生まれ。詩作のほか、絵本、エッセイ、翻訳など著書多数
※3 中央図書館改修を考える区民ワークショップ::大規模改修に向けて区民の意見を徴収するため、2016(平成28)年に行われた取り組み
「杉並区立中央図書館設計趣旨説明書」黒川紀章建築都市設計事務所
『共生の思想-未来を生きぬくライフスタイル』黒川紀章(徳間書店)
『新・共生の思想-世界の新秩序』黒川紀章(徳間書店)
『現代の建築家 黒川紀章』SD編集部・編(鹿島出版会)
「彫刻家 佐藤忠良-永福町にアトリエを構えて」杉並区(永福町駅設置の「冬の像」説明板)
「広報すぎなみ平成29年4月15日号 特集すぎなみビト 谷川俊太郎」杉並区