荻窪駅から西荻窪方面に歩いて10分ほど、青梅街道沿いにあるTitle(タイトル)。店主の辻山良雄さんが大手書店を退職後、2016(平成28)年に開いた新刊書店だ。
店舗は古民家を改装しており、どこか懐かしさが漂う。取り扱うのは、「生活」に関わる本を中心に約1万冊。表紙の雰囲気を大切にしたいのでPOPなどは付けていない。その代わり、本の並べ方にはひと工夫。例えば、大型店では単行本と文庫本の棚を分けているが、ここでは同じ棚で並べたり、週刊誌の間に珍しいリトルプレス(※)を差し込んだり。「あれ?」と一瞬目をとめてもらえるような、ちょっとした発見を大切にしている。
本屋の奥に8席のカフェスペース、2階にギャラリーを併設しているのも特徴的だ。「駅から遠いので、ここを目的に来てくれる人が多いんです。なので、カフェでゆっくり過ごしてもらいたい。定期的に行うイベントでは、本の世界に直接触れて、そしてまた本を読み返してもらえたらうれしいです」と辻山さんは言う。本を売るだけではなく、本と深く向き合う場作りをしているのだろう。
杉並区民におすすめの本は?と聞くと、手に取ったのは『田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」』。「杉並に住む方は、はっきりした独自の意見をもっている人が多い印象があります。著者は、自分の意志を貫いているパン屋さん。読み物としても面白いですし、仕事のヒントにもなると思います」。ちなみに、Titleでのベストセラーは井伏鱒二の『荻窪風土記』で、荻窪みやげとして購入する客も多いそうだ。
店内で本を見ていると、小さな子供を連れた家族が来店し、子供は絵本、大人は雑誌を選んで買って帰った。近年、書店の閉店が続く中、常に人が集まる町の本屋、Title。ここには、じっくりと本を選ぶ、ゆるやかな時間が流れている。
※リトルプレス:個人や団体が制作から販売まで行う少部数発行の出版物