西荻窪駅北口を出て、 伏見通りを5分ほど歩くと、左側の脇道の先に「古本」の看板が見えてくる。店の外には100円均一の棚が並ぶ、一見 普通の古本屋。しかし店内に入ると、間接照明の下、棚や床が木目で統一されたモダンな空間があり、静かに音楽が流れている。 そのせいか壁や通路の棚いっぱいの本に囲まれていても圧迫感はなく、くつろいだ気分になる。
古書音羽館は2000(平成12)年開業。店主の広瀬洋一さんは、東京都町田市にある古書店「高原書店」の勤務を経て35歳で独立、この場所にあった別の古書店が閉店したあとを引き継ぐ形で店を開いた。店名の由来については、「語感がいいし老舗のようで信用されそうではないですか」と広瀬さんは照れながら語る。
店に並ぶ本のジャンルは幅広い。「人文書がメインですが、特定の分野や自分の趣味に偏らず良い本を集めたい」と。高原書店での経験から、幅広い客層を呼び込む堅実な店づくりが広瀬さんの方針で、 店内には女性向けの本を集めた棚や新刊本、CD販売コーナーも設けている。また、個人からの買取りにも力を入れているそうだ。「中央線沿いには戦前から作家や学者が移り住み、文化の蓄積がある。買取る本には教養書や芸術関係の良書が多くあり、店の品揃えに自然に反映される。それがまたクリエーターらの知的なモノづくりに関わっている人を店に呼び込んでいる」。穏やかな話しぶりの広瀬さんだが、地域や本への思いは人一倍熱い。「特に西荻には新品にこだわらず良書を求める人が多い。西荻だからこそ得られたさまざまな分野の人たちとの交流を大事にして、音羽館を西荻らしい古本屋にしていきたい」と語る。 ライターが店を訪問した日曜日の午後は、男性客ばかりでなく若い女性や子供連れの主婦なども次々に来店していた。夜は23時まで営業しているが、開業当時に比べると夜遅い時間の若者の来店は減っているという。
広瀬さんは、本に関わるイベント「西荻ブックマーク」(※)を主催者の一人として、ほぼ毎月開催し、これまで多くの作家や編集者らを招いてきた。全国的に古書店が減少していく中、音羽館は西荻ブックカルチャーの発信拠点として存在感を増している。
▼関連情報(※)
西荻ブックマーク公式HP(外部リンク)