春日神社の氏子区域に継承されてきた大宮前囃子(おおみやまえばやし)。同神社には、大宮前囃子連中が奉納した「創立安政三年以来連盟」の額があり、安政年間(1855-1860)から存在したのではないかといわれてる。第二次世界大戦の影響で一時途絶えたが、1946(昭和21)年頃に高井戸で囃子が再び行われるようになり、それを聞いた大宮前の若者たちも復活に向けて稽古を始めたという。現在は、1955(昭和30)年頃に発足した大宮前郷土芸能保存会が伝承している。
早間船橋流(※1)の系統にあるといわれ、「締め太鼓の絡みに特徴がある」と大宮前郷土芸能保存会代表の牧野慶治さんは話す。「やり方としては、2個の太鼓の文句を一緒にせず、それぞれが一撥(ひとばち)ごとに強弱を違え、交互に絡み合うように叩きます。それに合わせて笛のメロディーも変えていきます」。これを「くずし」と言うそうだが、「くずし」とは、囃子の基本である「地言(じごと)」に対し、演者が独自のアレンジを加えること。さまざまな技が加わり、世代が変わるにつれて洗練されていっているそうだ。
大宮前里神楽
大宮前郷土芸能保存会は、里神楽(※2)を演ずることができる、都内でも数少ない団体である。稲荷大明神(いなりだいみょうじん)と天狐(てんこ)の勇壮な舞が見どころの「稲荷山」や、二匹の鬼のコミカルなやりとりが楽しい「悪鬼退治(あっきたいじ)」など、約30種類の演目がある。里神楽と祭囃子を同じメンバーで演じているが、神楽独特の笛の指使いを祭囃子の笛に取り入れられるといったメリットがあるそうだ。
※1 早間船橋流:千歳村船橋(現世田谷区船橋)の内海軍治朗が確立した、テンポの速い囃子
※2 里神楽(さとかぐら):神楽とは、神々を鎮魂し祈願祈祷を行う神事芸能。里神楽は、宮廷の御神楽に対する民間の神楽
Q:大宮前郷土芸能保存会のメンバーと活動
A:会員数は40名ほどで、多くが社会人です。子供の頃から続けている人や、近所のお祭りとか「杉並郷土芸能大会」(※3)での出し物を見て「自分もやってみたい」と加わった方など、いろいろです。会員になると、まず最初にお囃子の太鼓の練習から始めて、それから大太鼓や鉦(かね)に進みます。また、里神楽では、同じ人が舞手と鳴り物両方を演じられるようにしています。これは、互いの立場を理解するためと、メンバー全員が全ての技術を伝承できるようにするためです。
練習は週に2回、主に春日神社で17時半~21時頃まで行っています。大会前などには、「杉並郷土芸能大会」でご一緒している華鼓さん(※4)の地下練習場を借りています。地元の西荻窪で華鼓さんや高井戸囃子保存会さんと盆踊りで協力し合ったり、保存会同士のつながりもありますよ。
Q:大宮前郷土芸能が見られる行事・祭礼など
A:毎年9月、杉並宮前春日神社の例大祭でお囃子と里神楽を演じています。区外でも、東京都調布市の糟嶺(かすみね)神社の祭礼で神前舞(※5)を行っているほか、2013(平成25)年まではJR相模湖駅近くの與瀬(よせ)神社でも里神楽を演じていました。また、お正月には近所の老人ホームなどで獅子舞をやっています。
Q:今後について
A:それぞれの地域のお神楽を復活させたいですね。お互いがライバルのような存在になって切磋琢磨したり、人手が足りないときには手伝ったり。現在は、中野区の鷺宮囃子保存会さんの神楽を復活させようと一緒にがんばっています。
※3 杉並郷土芸能大会:杉並区内の郷土芸能団体が里神楽や祭囃子、獅子舞などを披露するイベント。毎年秋に開催
※4 華鼓(はなこ):西荻窪の不動産会社「オレンジボード」内の和太鼓チーム
※5 神前舞:神前にて奉奏される神楽
「祭りばやしのひびき 杉並の祭礼と郷土芸能」杉並区立郷土博物館
第33回杉並郷土芸能大会パンフレット