能の謡(うたい、声楽の部分)や仕舞(しまい、舞の部分)の稽古を長年続ける謡曲同好会が、杉並区内には8つある。杉並区謡曲連盟はその同好会の集まりで、1963(昭和38)年に設立され、現在の会員は約70名。全員が素人ということだが、能を学んで50年以上という方も多い。謡曲同好会メンバーの多くは、能の流派である観世(かんぜ)、宝生(ほうしょう)、金春(こんぱる)、喜多(きた)、金剛(こんごう)の五流の師匠にそれぞれ師事して、月に2回ほど稽古をつけてもらい、毎年、属する流派の本舞台やさまざまな発表会で謡・仕舞を演じている。
杉並区謡曲連盟では、謡曲同好会メンバーの日頃の研鑽の成果を披露するため、毎年春と秋に、杉並能楽堂(※1)で杉並区謡曲連盟大会を催しており、2018(平成30)年の秋に第100回を迎える。大会では、観客に気軽に楽しんでもらうため、主役のシテ(※2)が面(※3)をつけて華麗な装束を着ける本式の能の上演はないが、各流派が紋付袴姿で謡や仕舞、舞囃子(※4)を披露する。
2018(平成30)年の春に行われた第99回大会では、世阿弥(ぜあみ)作で夫婦の愛と長寿の喜び、泰平の御代(みよ)を言祝(ことほ)ぐ「高砂(たかさご)」から始まり、伊勢物語を題材にし、杜若(かきつばた)の精をシテとする能である「杜若」など、多くの曲目が演じられた。観客は能舞台に流れる謡の声と美しい舞に魅了されていた。
※1 杉並能楽堂:狂言大蔵流山本東次郎家に伝存されてきた能舞台。1910(明治43)年創建、1929(昭和4)年に現在の杉並区和田に移築再建された。東京では靖国神社の芝能楽堂に次いで古く、2013(平成25)年2月には杉並区指定有形文化財に指定された
http://suginaminohgakudou.org/
※2 シテ:能・狂言で主人公を演ずる者
※3 面(おもて):能面のこと
※4 舞囃子(まいばやし):面をつけず紋付き袴姿で一曲の舞いどころを舞う。仕舞は4~5人の地謡(じうたい)のみで舞うが、舞囃子は地謡と笛、小鼓(こつづみ)、大鼓(おおつづみ)、太鼓(たいこ)などの囃子によって演じる
Q:謡曲の見どころ、楽しみ方
A:謡曲には、鎌倉期以前の古典を題材に平安期の言葉で書かれている曲目が多いため、詞章(ししょう)と呼ばれる謡の言葉を聴くことで、日本の古典文学の素晴らしさに触れることもできます。そして、謡のお腹から出すよく通る大きな声と、仕舞のきれいな立ち居振る舞いを見て楽しんでほしいと思います。
Q:第100回記念大会を迎えて
A:第100回記念大会は、2018(平成30)年10月28日(日)に杉並能楽堂で開催します。連盟では記念大会にふさわしい企画を考えていますので、気軽に見に来ていただきたいと思います。企画の1つ目は、同じ曲目を五流それぞれの演者に演じてもらうというものです。能楽では流派によって謡い方や所作(しょさ)が少しずつ異なるので、その違いが見どころです。2つ目は、京都から狂言方(※5)を招待し、出演していただく特別企画です。「幽玄」の世界を演じる能と、「滑稽」「笑い」の世界を演じる狂言の両方が楽しめます。
Q:今後について
A:伝統ある古典文化を継承していくためにも、より多くの方、より若い世代の方に私たちの舞台をご覧いただきたいですね。興味を持った方には、ぜひ謡曲同好会に入会し、一緒に謡、仕舞を楽しんでもらいたいと思います。
※5 狂言方:能楽の上演において狂言を務める役者。現在は大蔵、和泉の二流の狂言師が、シテ方五流の狂言方を務めている
『能・狂言の基礎知識』石井倫子(角川選書)
「第99回 杉並区謡曲連盟大会 番組表」