高円寺の北口、庚申通り商店街に2015(平成27)年2月にオープンした古書サンカクヤマは、音楽、映画、美術、文芸などカルチャー系の本が充実している。CD、レコードもそろえ、玩具やぬいぐるみなどの雑貨が店内にあふれる、明るくカジュアルな雰囲気の古本屋だ。
店主の粟生田由布子(あわうだゆうこ)さんは、音楽が好きでCDショップに勤めたが、好きな音楽でも仕事だとつらいと感じるようになり、いくつかの仕事を経験するうち古本屋ならば自分一人でもできると思いついたという。そして吉祥寺の古書店での修業ののち、30歳の時にこの店を開いた。
粟生田さん自身は、一昔前の短編小説やエッセイが好きで、文学や民俗学にも興味があるが、店でよく売れるのは漫画、アート、映画の本など。本の仕入れは店での買取りがメインで、自分が好きな90年代の雑誌も集めている。雑貨を置くようになったのは、開店当初に売る本が少なく、自宅にあった雑貨を店の空いた棚に並べたのがきっかけ。雑貨の買取りの基準は、自分の好みに合うかどうかだそうだ。
北海道出身の粟生田さんが上京して最初に住んだのは京王井の頭線沿線。小さな街での暮らしがとても気に入り、初めは店の立地もそういう場所を探した。高円寺などJR中央線沿線は古本屋が多く競争が激しいイメージだったが、勤めていた古本屋の店主の勧めもあり、家賃などの条件が合った高円寺駅から少々離れた商店街の現在の場所を選んだ。
客は平日は地元の人、休日は高円寺に遊びに来た人が多い。アートなどビジュアル系の本やレコード、雑貨などを目当てに店を訪ねてくる外国人の客も少なくない。時折、古本に詳しい客が来店し、「こんなに安い値段で売ってはだめだよ」とアドバイスして買っていくこともあり、「高円寺らしさを感じます」と粟生田さんは笑う。
かつて粟生田さんは、つらい時の息抜きによく古本屋に立ち寄って時間を過ごしたそうだ。「サンカクヤマは、古本屋にこだわらず、さまざまな人たちが気軽に立ち寄れる商店街の居場所として、これからもどんなかたちであれ続けていきたい」と語る。