区長が語るすぎなみ5ストーリーズ

杉並区区制施行90周年にかける思い

区長就任後に区制施行80周年記念パレードを見たことがきっかけで、やがて迎える100周年を大きな節目と捉え、区の歩みを次世代にきちんと残したいと感じました。人の一生や会社に誕生日や周年事業があるように、区政においても、過去を振り返り歴史を知ることは将来の道しるべになるのではないでしょうか。90周年を契機とし、100周年に向けてスタートすることに意義があると思います。
90周年にあたり、区の歴史を語る上で欠かせない出来事について資料を収集し、当時のリアリズム、熱量を次世代に語り継ごう、責任を持って形にしようと提案しました。「内田秀五郎のしごと」「原水爆禁止署名運動」「東京高円寺阿波おどり」「東京ごみ戦争」「3.11 自治体スクラム支援等の活動」の5つは、区の発展につながった大きな出来事です。90周年を機に、過去を知らない人が、その時の人々を動かした熱を当事者として受け止め、自分の問題として考えてほしい。今生きている人に、今日の課題として将来につなげていってもらいたいのです。

▼関連情報
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田中区長(2022年2月28日、区役所本庁舎にて)

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内田秀五郎が組合長を務めた井荻町土地区画整理組合(出典:『事業誌』)

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すぎなみ5ストーリーズと杉並の歴史

内田秀五郎のしごと
区の基礎を作った内田秀五郎さんは、さまざまなことを行った人です。中島飛行機の誘致にとどまらず、今の西武信用金庫につながる銀行や、井草八幡宮の隣にあった青果市場、西荻窪駅、西武線の駅の誘致などを行いました。一番大きな仕事は井荻村(町)土地区画整理事業です。東京全体の中で行ったことも大きくて、35区あった東京市を戦後に22区に再編した時の検討会の座長をやっていた。そして、半年遅れて板橋区から練馬区が独立して23区になった。地域の利害が衝突するややこしい話をまとめる大事な仕事をされた方ですね。だから内田秀五郎さんという人の仕事を振り返ることが、まず1つだろうと考えました。

原水爆禁止署名運動
まだ戦争の名残が消えない1954(昭和29)年、ビキニ環礁で水爆実験があり、第五福竜丸が被爆する事件が起こった。そして原水爆禁止署名運動が始まったのですが、その発祥の地が杉並にあった公民館で、中心人物は公民館長の安井郁さんという学者でした。地域だけでなく日本中、世界中を巻き込み、翌年には原水爆禁止世界大会が開催されて、現在も年に一度開かれている。核兵器は広島・長崎で使われて、それを最後に絶対使われないような管理の仕方を考えていかねばならない、21世紀の最大の社会的な課題です。風化しないように、当時のリアリズムや人々の熱量を今日に語り継ぐこと。それが、想像力を持って、当事者として核の問題を考えることにつながると思うので、伝え方を探っていきたいですね。

東京ごみ戦争
僕が小学生ぐらいの頃にごみ戦争があって、江東区ではハエ戦争と呼んでいました。江東区では日常生活ができないくらいハエが発生しており、「各自治体で工場を建てて自区内処理をしてほしい」と、バリケードを張って区からの清掃車をブロックしたんです。一方で、東京都が高井戸に今の清掃工場を作るという計画を発表したことにより、地元では「小学校の目の前で煙突から煙を出したら害があるのではないか」と大変な問題になりました。最終的に裁判で和解し、東京都の予算で、井ノ頭通りから環八の地下にトンネルを掘って清掃車が学校の前を通らずに清掃工場に行くことを可能にしました。清掃工場には市民センターが併設され、この問題に取り組んだ地域住民が作った財団が今に至るまで工場の運営に関与しています。和解してできた施設を責任持って管理し、発言の場を自分たちで大事につないでいる。ごみ戦争という、当時東京全体を揺るがせた都市問題、公害問題を解決する1つの先例を住民の自治で作ったという意味で、大いに語り継ぐべきところがあるのではないでしょうか。

清掃工場設置反対運動(写真提供:杉並区)

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各テーマについて、自身の思い出を交えながら語る

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意見を取り入れながらストーリーズを選定

東京高円寺阿波おどり
高円寺の阿波おどりは都内随一のイベントです。とにかく高円寺というのは、1年中阿波おどりのムードが漂う、そんな街は他にはないのでは。最初は商店街の記念行事の小さなお祭りとして始まったものが、現在では踊り手が1万人、観客が100万人という大きな規模になったというのも面白い。当然、その発展の過程では、音やごみなどの苦情処理、運営資金難、東日本大震災時の電力不足への対応など、さまざまな困難があったのですが、それを地域が一体となって力を合わせ乗り切り、成長してきた。そういった経緯を、劇にして座・高円寺でうまく演出し、上演して語り継いでいく。区民の喜怒哀楽を含めて、街の良さを伝えられる作品になるといいですね。

3.11 自治体スクラム支援等の活動
東日本大震災の時は、みんなニュースで状況は見ていたけれど、被災した南相馬市への支援に関し、現地との連絡は取れず、都や国からの指示もない。どうしていいか分からない中で、職員交流(※)で区に派遣されていた南相馬市の職員や、向こうに行っていた区の職員がいて、そのルートでまず情報を収集しようという話になり、一生懸命にみんなで携帯にかけていたら、職員同士が通じたのです。市長と僕が最初に直接電話で話したとき、市長は名乗ったきり無言になってしまって。いろいろなことがありすぎて言葉が出てこなかったのかもしれません。だからこちらから「救援要請で行かせますからね、いいですか?」と伝えると、「お願いします!」ってようやく言ってくれて。自治体連携の仕組みとして新しい境地を開いた瞬間でした。区民一丸となって被災地支援をしたことを含めて、継承した方がいいという意見がありストーリーズに入れました。

東京高円寺阿波おどり本大会(写真提供:東京高円寺阿波おどり )

東京高円寺阿波おどり本大会(写真提供:東京高円寺阿波おどり )

東日本大震災で被害にあった南相馬市の市長と対談(写真提供:杉並区)

東日本大震災で被害にあった南相馬市の市長と対談(写真提供:杉並区)

熱い思いでクオリティの高い企画に取り組む

記念事業企画に関わる職員には、問題・課題を世界の人たちにも向けて発信するような、そういう志で作っていってほしい。扱う中身が世界の課題なのだから、お役所仕事でやっていては意味がない。映画であればアカデミー賞を狙うぐらいのものを目指してほしいんです。それに耐えうる中身にするためには、我々も勉強しなきゃならない。ものを作るのはそれぐらいの情熱を入れてやるべきことだと、僕は鼓舞しているんです。
例えば、原水爆禁止署名運動の発信。日本が唯一の被爆国でありながら、米国の核の傘で平和が守られているのは矛盾だという指摘もあるけれど、核兵器が使われたときにはこういう悲惨なことが待っているんだよと、リアリズムを持って発信していくことが必要なのではないでしょうか。どんな国の指導者も国民が核兵器を本当に忌み嫌う国民性だったら、そう簡単には兵器を使えなくなるということに期待するしかないですよね。そのために僕らは、自治体の側から発信できることを精一杯発信していこうと。そういうことだと思います。

原水爆禁止署名運動で、名簿を整理する夫人たち(写真提供:杉並区)

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「杉並区区制施行90周年記念 5ストーリーズ ~時代を切り拓いた先人たちの歩み~」パンフレット

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基本構想を指針に前進し続ける施策を

「みどり豊かな 住まいのみやこ」を、区が目指すおおむね10年後のまちの姿とする基本構想を策定しました。この基本構想に描かれている理念の下に、福祉、教育、まちづくりなど、いろいろな分野の施策に取り組みます。
90周年記念事業を通じて、文化事業も今までにないやり方で新たに起こしていきます。すぎなみ5ストーリーズを掘り下げて、テーマごとに伝え方を進化させていけば、100周年を迎える10年後には、見る人に熱が伝わるものができるようになるのではと期待しています。座・高円寺の阿波おどり演劇の公演は、毎年オーディションをやってもいいし、その中で杉並の阿波おどりが生んだスターが輩出されるかもしれない。日本フィルハーモニー交響楽団に杉並の曲を作ってもらうなど、区が持っているポテンシャルも最大限に生かしていきたい。いろいろなやり方があるだろうと思っています。見て楽しかった、面白かった、またこれどこかでやってよって、そういうふうになるのがいいですよね。

※職員交流:杉並区と交流自治体の職員が、お互いの都市で業務にあたる制度

「枠や型にはめちゃうと、その中でしか想像力を働かせなくなっちゃう。それじゃだめだから、やりたいことをやれと。そうしないとクリエイティブな頭にならないって、僕はすごく感じています」

「枠や型にはめちゃうと、その中でしか想像力を働かせなくなっちゃう。それじゃだめだから、やりたいことをやれと。そうしないとクリエイティブな頭にならないって、僕はすごく感じています」

DATA

  • 出典・参考文献:

    『事業誌』井荻町土地区画整理組合

  • 取材:SATOKO、とりの
  • 撮影:山川健一
    写真提供:杉並区、東京高円寺阿波おどり
    取材日:2022年02月28日
  • 掲載日:2022年04月04日