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みおつくしの会

古文書を読み解くボランティア団体

みおつくしの会は、古文書の解読に研鑽(けんさん)することを目的として設立されたボランティア団体だ。杉並区立郷土博物館の視聴覚室で、同博物館が所蔵する杉並区内の地方文書(※1)の解読・翻刻(※2)を行っている。
会員は、郷土博物館が開催する古文書講座の修了生が主で、2023(令和5)年現在15名が所属。担当の佐藤友美学芸員と共に、毎月2~3回、日曜日の午前10時から12時まで活動している。

佐藤友美学芸員と共に古文書の翻刻を進める会員たち

佐藤友美学芸員と共に古文書の翻刻を進める会員たち

結成の経緯

会が結成されたのは、1996(平成8)年8月である。
郷土博物館で開催された「平成8年度上期 古文書講座」の受講生のうち3名が、修了後も引き続き古文書の学習を継続したいという要望を出したところ、当時の館長から「事業として講座を継続して同じ講師が指導することは難しい。だが、教材制作費などを各自が負担し、自主的な活動として継続するのであれば、当館学芸員がアドバイザーとして協力することと、会場の提供は可能である 」との回答があった。そこで、有志の会員を募って9名で活動を開始したという。当時の区の規則上、会場を貸し出す対象の団体には会則が必要であったことから、館長と相談の上で会則を定め、「みおつくしの会」の名称もこの時に誰ともなく言い出して決めたそうだ。

活動開始後まもなく、郷土博物館に寄贈・寄託された区内の地方文書を読み始め、以来、旧馬橋村や旧下井草村の名主宅に残された「御用留」(ごようどめ ※コラム4参照)を中心に扱っている。
発足から8年後、それまでの成果の一部を「杉並区立郷土博物館研究紀要」に公開することが決定。第13号(平成16度版)と第14号(平成17年度版)に「研究ノート」が掲載された。その際には、旧馬橋と旧下井草両村の比較ができるようにするなど、利用の便も図った。
こうした活動を契機として、当会は、同博物館の事業に位置付けられ、教材費と会議室料が無料となった。第16号(平成19年度版)からは、両村の「御用留」の翻刻を継続して同誌に掲載している。会の設立に関わった当時の非常勤職員で、早稲田大学講師・昭和女子大学講師の久保貴子さんは「活動がこんなに長く、30年近くも続くとは想像もしていませんでした。長く続けることは重要なことなので大変うれしいです」と話す。

みおつくしの会の翻刻が掲載されている「杉並区立郷土博物館研究紀要」

みおつくしの会の翻刻が掲載されている「杉並区立郷土博物館研究紀要」

「御用留」の翻刻作業

「御用留」とは、役所(領主や代官など)から出された触れや通達などの廻状を、村の名主が書き写したもので、その内容は当時の世相を反映している。
廻状は名主が押印した後に次の村へと順番に回され、最後の留村(とまりむら)から発信元の役所へ返却されるシステムだった。通常、廻状を持参した使者が各村々を回るのだが、名主宅に滞在する時間が限られており、受け取った名主は急いで写し取らなければならなかった。そのため字体は写真①「慶応三年馬橋村御用留」のような崩し字となり、名主の書き癖によって、読みやすいものや読みにくいものがあった。
みおつくしの会では、古文書字典などを使ってそれらを一字一字解読し、一般の方が読むことができるように翻刻している。

写真①「慶応三年馬橋村御用留」(資料提供:杉並区立郷土博物館)

写真①「慶応三年馬橋村御用留」(資料提供:杉並区立郷土博物館)

例えば、写真①「慶応三年馬橋村御用留」は、中野村の村役人から馬橋村の村役人に宛てて出されたもので、羽村まで届ける「御用莚」(ごようむしろ)を次の田無村に送るため、馬橋村から馬二頭を出してほしいと書かれている。写真②はその翻刻だ。
文中の「羽村御上水元」は現在の羽村取水堰(しゅすいせき)のことで、多摩川の水の流れを玉川上水へ誘導していた。台風などで多摩川が増水した時には、水位の上昇を抑えるため、堰の骨組みに用いた莚(むしろ)を下流へ流していたので、日頃から莚を蓄えておく必要があった。そのため、羽村御用を命じられた役人は、莚を江戸で買い集め、定期的に羽村まで運ばなければならなかったのである。短い文書ではあるが、読み解いていくと以上のようなことが分かってくる。
一冊の「御用留」は100前後の文書・記事を含んでおり、その解読・翻刻には1年以上かかる。みおつくしの会では、文書・記事ごとに要約も行い、標題も付けている。

写真②「慶応三年馬橋村御用留」翻刻(出典:「杉並区立郷土博物館研究紀要 第27号」)

写真②「慶応三年馬橋村御用留」翻刻(出典:「杉並区立郷土博物館研究紀要 第27号」)

「研究紀要」やパネル展で発表

杉並の地方文書を解読することは、地域史の一端を理解することに役立つだけでなく、江戸時代に杉並の庶民がどのように生きていたかを知る機会にもなっている。会員の一人は「古文書講座修了後、入会して初めて古文書解読に挑戦した時は何が何やらさっぱり分らず途方に暮れましたが、一字一字当てはめ、試行錯誤していくうちに次第に読み解けるようになりました。会の皆さんとの議論も参考になります 」と話す。
解読・翻刻が終わると、会の全員で手分けして翻刻文の内容を精査し、例年3月に発行される「杉並区立郷土博物館研究紀要」で発表。また、活動の一部を区民などに公開することを目的として、2017(平成29)年と2021(令和3)年には、郷土博物館でパネル展を開催した。今後も機会があればパネル展でも紹介していく予定とのこと。

翻刻に付ける標題を検討

翻刻に付ける標題を検討

江戸時代の杉並の庶民生活を伝えていく

古文書を解読する魅力について、宮部則子代表は「日本史では大枠しか分かりませんが、地域の古文書からは個々の生活が伝わってきます。例えば、慶応三年の「御用留」を読むと、幕末の最中、世情不穏なので各村で自警団を組織して不審な人を取り締るという動きがみられ、その自警団ののぼりやちょうちんをあつらえたことが分りました。このように日常の中身がじかに伝わってくるので、当時の人々はこんなことを考えていたのかという発見があります」と語る。佐藤友美学芸員は「皆さんとても熱心で、逆に私の方が学ぶことも多いんですよ」とほほ笑む。
翻刻が未了の杉並地域の地方文書は、まだまだ多く残されているという。「地道な作業の連続ですが、これからも精力的に読解・翻刻を続けていきたい」と、会員たちから頼もしい声が挙がっていた。

※1 地方文書(じかたもんじょ):江戸時代、村において行政上の必要から作成された文書・記録類
※2 翻刻(ほんこく):古文書などに残された古い時代の文字を読み取り、活字化すること

古文書辞典を参照しながら、熱心に読解に取り組む会員

古文書辞典を参照しながら、熱心に読解に取り組む会員

DATA

  • 電話:03-3317-0841(杉並区立郷土博物館)
  • FAX:03-3317-1493(杉並区立郷土博物館)
  • 出典・参考文献:

    『日本古文書学会編集 古文書所研究 第76号』(日本古文書学会)
    「杉並区立郷土博物館研究紀要 第27号」(杉並区立郷土博物館)

  • 取材:OKIKAKI
  • 撮影:TFF
    取材日:2023年10月08日
  • 掲載日:2023年11月27日